ドイツ代表、“レーブ時代”の終焉 独メディアから批判されても曲げなかった信念

監督は選手を数字やデータ、これまでの結果だけで見ていない

 もちろん、トップレベルの優れた指導者には、そうしたプレッシャーの中で瞬時に適切なメッセージをピッチに送らなければならないことが求められている。レーブも「誰でもミスはする。私はミスをするだろうし、ミスは起こるだろうと思っていた」と口にしていたが、だからといって納得できるミスとそうではないミスがあるのも確かだし、指揮官はそこで戦っていかなければならない。その時ベストだと思った決断が、経過と結果に結びつかない苦しさと常に向き合いながら。

 ドイツメディアはいろいろ言う。「ピッチで期待に応えられない選手を信頼するのはもうやめろ」といったのは、ローター・マテウスだったか。そうかもしれない。でも、それをしたらレーブらしさが消えてしまう。

 監督は選手を数字やデータ、これまでの結果だけで見ていない。監督はチームに一番近いところで選手を見ている。トレーニングでの空気感、感触がそこにはある。ピッチ内外での選手間コミュニケーションを観察しているし、練習から指導者サイドの狙いを汲んで、それを実践するためのプレーを披露してくれる選手をチェックしている。だから「この選手はやってくれる」という直感をもたらしてくれた選手を信頼して、ピッチに送る。そうした関係性があるからチームは機能する。レーブはそうやってワールドカップ(W杯)で優勝した。だから現状から戦術を変え、システムを変えても、そこを曲げることはできなかった。

「代表チームはファミリーだ」

 レーブは常にそう強調していた。レーブにだけ責任を押し付けるのは賢明ではない。レーブの良さ・経験を最大限生かすための代表コーチングスタッフだったのか。攻守に問題を抱えていたセットプレーを改善できるコーチを招き入れることはできなかったのか。不用意な発言でフリッツ・ケラー会長が5月に退陣するなど、ドイツサッカー連盟そのものが多くの問題を抱えていることからも、抜本的な改革が必要なのかもしれない。

 グループリーグ敗退の危険性も高いと懐疑的な雰囲気さえ強かった大会前から考えたら、18年ロシアW杯に続いてメジャートナーメントで2大会連続グループリーグ敗退の危機を脱することができただけでよしとしてほしい気もする。ある意味ドイツにとって、いつでも「優勝を狙う国」という呪縛があるのが、何より厄介なのかもしれない。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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