日本の“逸材”田中碧、ドイツ2部移籍に驚き 好条件オファーをもう少し待てなかったのか
日本人選手の“大きな壁”は欧州2チーム目のステップアップ
一方で重要なのは、田中のポテンシャルについての判断だ。ドイツ(欧州)への慣らし期間との考え方もあるが、香川真司(現PAOK)は21歳でドルトムントに移籍し、最初から中心選手として活躍した。小野伸二(現・北海道コンサドーレ札幌)も同じく21歳で最初からフェイエノールトの攻撃を操り、UEFAカップ(現UEFAヨーロッパリーグ)優勝に導いた。あるいは板倉滉も、22歳でマンチェスター・シティと契約し、レンタル先のフローニンゲンでレギュラーに定着している。
結局、日本人選手の大きな壁になっているのは、次(2チーム目)のステップアップなのだ。もし日本代表がワールドカップでベスト8以上の成績を望むなら、その牽引車候補の田中は、逆算してどのレベルでプレーしている必要があるのだろうか。現在進行中の欧州選手権(EURO)はベスト8が出揃ったが、各国の2部でプレーしている選手はほとんど見当たらない。目標到達地点を考えれば、2部からの脱出が1年遅れるごとに難しくなる。
ちなみに2019年、26歳で当時ドイツ2部のシュツットガルトに移籍した遠藤航も、2節を終えたタイミングで契約して合流し、14節まではスタメン出場を果たせなかった。契約時点での評価には差異があるかもしれないが、東京五輪で合流が遅れる田中も条件は似ている。
川崎は小学3年生の頃から田中を指導し、大きな投資をして主力選手に育て上げた。言わばクラブの成功を象徴する存在で、今年の戦い方を見ても鬼木達監督にとって不可欠の存在だった。もちろん、移籍は本人が決めるべき問題だが、周囲も理想の成長曲線に近づくための方法論を精査していく必要がある。非凡な才の取り扱いは、Jリーグ、JFAも協力して向き合うべきテーマだと思う。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。