東大を率いる元Jリーガー監督、“超頭脳軍団”での挑戦 「勝負に拘る厳しさ教えたい」
引退直後の林陵平氏が新監督就任、注目の東大ア式蹴球部
J1、J2リーグ通算で300試合出場67得点を記録した林陵平氏は2020年シーズン限りでスパイクを脱いだ。そして今年1月に東京大学運動会ア式蹴球部の監督に就任し、選手から監督への華麗な転身を果たした。自身の経験から学んだ「勝負に拘る厳しさ」を、“超頭脳派軍団”に伝えていきたいと意気込みを語った。(取材・文=石川 遼)
◇ ◇ ◇
――東大のア式蹴球部の監督に就任されてまだ数カ月ですが、指導者としてのキャリアがスタートした感想を聞かせてください。
「『監督って大変なんだな』。これが率直な感想です。今まではプレーしていた側で、監督の気持ちも分かると思っていたんですけど、実際に監督の立場になってみると、練習メニューの構築や自分が考えているゲームモデルを選手に教え込むことの難しさを改めて感じています。そして選手の気持ちも理解できるからこそ、大勢の部員の中から試合のメンバー18人を選ぶところでは心苦しさもあります」
――引退直後のJリーガーが大学サッカーの監督に就任するのは異例だと話題になりました。以前から将来的には指導者の道も考えていたそうですが、それがまさか東大で始まるとは。
「僕もいきなり大学サッカーの監督というのはまるで考えていなかったですし、それがまさか東京大学になるなんて。さすがにそこまでのイメージはできていなかったです」
――実際に東大生を指導するにあたってはどのようなことを意識されていますか?
「僕としてはサッカーよりも人間的な成長が大事だと思っています。自分も明治大でプレーしていた4年間で人間的に大きく成長できたと感じていますし、その成長がプレーにもつながっていくと考えています。サッカーはもちろん、礼儀やコミュニケーション、主体性などを教えられるように意識してやっています」
――同じ東京都1部リーグを戦う他の大学ではスポーツ推薦で選手が入ってきますが、東大ア式蹴球部は一般入試で入ってきた選手たちばかりです。そういった環境のなかで、どのようなことを伝えていますか?
「僕が彼らに常々言っているのは『君たちは努力して東大に入った。君らは凄い才能を持っているし、努力してきたからこそこの場所にいる』ということです。ただ、良い大学を出たからといって必ず社会で通用する、成功するというわけではないということも伝えています。『東京大学』というブランドがあって、そこに入るまでに努力をしてきた子たちなので、そこにしっかりとした人間的な部分が合わされば、さらに凄いところにまでいけると思っています」
――「東大」ブランドというのは良くも悪くもそれ自体が注目されると思います。そのあたりで監督自身がプレッシャーを感じることはありますか?
「先日、那須(大亮)さんのYouTubeで僕らに密着した動画を公開していただきましたけど、そうやって東京大学ア式蹴球部が多くの人に知ってもらえる機会が増えるのは僕がここに来た意味の一つでもあると思うので、それはポジティブに捉えています」
――那須さん以外でも林監督と交流のある元Jリーガーが練習に参加されることもあるそうですね。今年から横浜F・マリノスなどでアナリストを務めた杉崎健氏をテクニカルアドバイザーに迎え、監督が現役時代から指導を受けたプロトレーナーの木場克己氏もア式蹴球部のスペシャルアドバイザーとして選手たちを教えています。
「そうですね。木場さんは僕がプロ入りした最初の頃からずっとお世話になっていて、東大でもぜひとお願いして快諾してもらいました。チューブを使った体幹トレーニングは間違いなく効果が出ていると思います。選手たちはこれまで練習前のアップでする決まったメニューがなかったんですが、木場さんに教えてもらって選手個々で取り組むメニューができたというのはプラスになっていると思います」