モウリーニョ、なぜショーを執拗に批判? 毒舌浴びる本人が皮肉「彼の頭の中には僕が住み着いてしまっている」
選手を愛すればこその批判かもしれないが…
その後の2年半は1軍半の扱いが続いたが、見返す前にポルトガル人名将が解任された。天敵とも言える存在だったモウリーニョが去り、オレ・グンナー・スールシャール監督が後任となると、ショーはレッドデビルズのレギュラーに返り咲く。また今回の欧州選手権(EURO)でもイングランドの左サイドでチェルシーのベン・チルウェルを抑え、グループリーグ2戦目、最終戦に2試合連続で先発を果たし、がっちりとポジションをつかんでいる。
そんな最中、グループリーグを突破し、決勝トーナメント1回戦(ベスト16)で宿敵ドイツとの戦いを目前とした会見で、ショーがモウリーニョに対する困惑と不快感を表明した。
きっかけはかつての恩師がラジオの解説で、ショーのセットプレーでのFKが「とてつもなく酷い」と解説したことだった。
「drastically bad」。このdrasticallyがなければ良かったかもしれないが、この“徹底的に”という形容がついて「悪い」とモウリーニョのような権威に公に断言されたら、今後、ショーがデッドボール(セットプレーのキッカー)に手が出せない(この場合は”足”か)ほど自信を失いかねない。
しかし今回は監督と選手という関係から離れていたため、ショーがきっちりと反論した。
まずは「代表の選手仲間からも『彼の問題は一体なんなんだ?』と聞かれる」と語り、モウリーニョの執拗な批判がイングランド代表チーム内でも戸惑いの対象となっていることを明かすと、「どうやら彼の頭の中には僕が住み着いてしまっているようだ」と続けて、必要以上の毒舌を浴びせるかつての恩師の発言をチクリと皮肉った。
そして「僕らが上手くいかなかったことは隠せない。それに今の彼の言動はかつてのものとは比べものにならないほどマシだが、こうして僕のことを批判し続けるのは不思議だ」と語って自らの困惑を明らかにすると、「彼は素晴らしい監督だと思うが、過去は過去。彼の下で選手をやって僕は成長し、今では彼の言うことも無視できる。しかし僕の人生にとって、無視よりも前に進むことのほうが大事だ」と話して、モウリーニョ氏に不必要な批判を止めるように求めた。
しかし、どうしてここまでモウリーニョはショーをけなすのだろうか。この件に関しては今後、ポルトガル人側のリアクションも出る可能性があるので楽しみにしたい。
批判の陰にあるのは、もしかすると愛、という場合もあるかもしれない。あふれる才能がありながら、自分の言うことを聞かない選手を愛すればこその批判――。けれども今回の場合はその薬が効きすぎて、ショーには完全に嫌われてしまったようである。
(森 昌利 / Masatoshi Mori)
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。