イングランドは初のEURO王者になれるか 気になる監督の「弱さ」と英国民の「分裂」

イングランド代表を応援するサポーターたち【写真:AP】
イングランド代表を応援するサポーターたち【写真:AP】

EU離脱に伴う英国内の分裂がブーイングにつながっている?

 そうした国が割れた傷口は、親善試合でキックオフ寸前に選手がひざまずき、BLM運動を支援するポーズをしたところにサポーターがブーイングを浴びせたことでも明白に表れたと思う。

 あれは単純な人種差別主義者だけのブーイングではなく、人種差別主義者とレッテルを貼られることにうんざりする白人たちの抗議の声でもあると思う。俺たちだって新型コロナウイルスのパンデミックで辛いのに、いつまで黒人たちのためにひざまずかなければならないんだ、という気持ちだろうか。

 しかし、あそこでブーイングができるという心根はいかがなものか。面白くない、全面的に賛成できないという気持ちがあっても、ブーイングまではしないというのが普通の神経なのではないか。それに当然ながら、あのブーイングを聞いた黒人選手の心境が心配だ。

 そうしたなか、3試合のグループリーグで貴重な2点を叩き出したのが、黒人選手のラヒーム・スターリングだったというのも皮肉な結果に感じるが、このようなEU離脱に伴う英国内の分裂が、あのサポーターの短気なブーイングにもつながっているような気がしてならないのだ。

 しかしこれも英国居住が長くなり、連日この国のメディアを読破して、レポートする日々のなかで肥大した杞憂であってほしいと思う。

 そしてイングランドがグループリーグでのショボさから脱し、そのスカッドの本来のクオリティーにふさわしい創造性と胸のすくようなゴールを連発して、初の欧州王座を射止めてほしいと心から願う。しかしその一方で、やはり頂点を極めるには、監督の弱さと離脱と残留で割れた英国民の心の傷の深さが気になるのである。

(森 昌利 / Masatoshi Mori)

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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