イングランドは初のEURO王者になれるか 気になる監督の「弱さ」と英国民の「分裂」

スコットランド戦でブーイングを浴びせたサポーターにある大きな問題

 確かにああいうパフォーマンスは、「なんでもいいから前に出ろ!」「ゴールを奪って勝利をつかむんだ!」というイングランドサポーターが、“やる気がない”“勇気がない”と言って最も嫌う類ではある。

 しかしもっと驚いたのは、サウスゲート監督がそんなファンのブーイングにたじろいだのか、試合後に「ファンに申し訳ない試合をした」と謝罪したことだ。

 英国ダービーとなり、初戦のチェコ戦を0-2で負けたスコットランドがなりふり構わず、きついフィジカル戦を挑んで来るのは明白だった。そんな試合で相手をゼロに抑えて勝ち点「1」を手堅く分け合ったのだから、指揮官として謝る必要など全くない。それどころか、難しい試合をゼロに抑えた選手を「良くやった。クリーンシートという最大の課題をクリアした」と褒めるべきだったと思う。

 それが監督の仕事ではないか。もしジョゼ・モウリーニョなら、「ゴールが奪えなかったことは残念だが、2戦目も無失点。自分の戦略がきっちり機能した」などと語って自画自賛し、メディアをねじ伏せる光景が目に浮かぶ。

 しかも謝ったうえに、サウスゲートは「選手はまだ若い。だから非難の対象にするのはやめてほしい」と語り、ブーイングをやめてほしいと懇願した。

 これも「母国の選手をブーイングするとは何事か!」と一喝するべきだったと思う。それがブーイングをやめてという懇願では、名誉と誇りを賭けて激しい国際試合を戦う選手を率いる監督として、どうしてもその資質に欠けると見えてしまうのだ。

 そしてもう一つの大問題。それはこのスコットランド戦でブーイングを浴びせたサポーターにある。

 まず、ここで声を大にして言いたいことは、現代のフットボールマッチは“総力戦”であるということだ。特にEUROのような最高峰の戦いでは、微妙な差が勝敗の明暗を分ける。現場であるチームが一丸となることは無論のこと、こうした代表のメジャートーナメントであれば協会、メディア、そしてサポーターも巻き込んだ四枚岩が一つに固くまとまることが肝心だ。それがヨーロッパを制覇するムードを生むというものだろう。

 しかし、最近のイングランドサポーターには、どうもそうしたまとまりに欠ける気がしてしょうがない。

 その原因について筆者は、2016年6月23日に行われた英国のEU離脱を決めた国民投票に起因しているような気がしてならないのである。

 結果はともかく、あの日以来、英国が割れて壊れてしまった感じがして仕方がない。そして離脱となったことで、外国人排斥、また人種差別まで肯定されるようなムードが生まれ、同時にそうした風潮に戦うムードも生まれた。国の中に「あなたはどっち?」という二つに割れた不信感が色濃く漂い、言い争うことに辟易とする倦怠感も充満している。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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