イングランドは初のEURO王者になれるか 気になる監督の「弱さ」と英国民の「分裂」
チェコ戦のシュート数はわずか5本、前への推進力に欠けた
無論、これまでEUROでは必ず、そしてワールドカップ(W杯)でも日本代表に次いで妻と息子と娘の母国であるイングランドを心から応援してきた。が、その経験上(この国の代表チームは一生懸命応援すればするほど、フラストレーションが溜まり、傷心の結末を迎えることになる)、今回のEUROにもこれまでと同様、いやそれ以上に期待外れの結果に終わるのではないかと心配になっている。
グループリーグ開始直前にも、ウェンブリーでの試合が多く、ホスト国に近い恩恵があるという理由で英国のブックメーカーがイングランドを一番人気に推しているが、「不安である」という内容の記事を書いた。その記事中、EURO本番前の親善試合2試合の印象、そして2000年代の黄金期の選手だったリオ・ファーディナンド、フランク・ランパード、スティーブン・ジェラードの証言も含め、代表選手の大部分がプレミアリーグでプレーすることで、普段のクラブ間で戦わせる激しいライバル心が災いし、代表チームが一つにまとまらない弊害があることを記した。
そして今回のグループリーグ3試合を見た結果、選手が全力を出し切れていない印象が強く、その疑問はかなりの確信に変わっている。試合内容自体、3戦して2ゴールは明らかに物足りない。攻撃面での創造性に乏しい試合の連続だった。
それは数字にも明確に表れている。初戦クロアチア戦(1-0)のシュート数は8本。次戦のスコットランド戦(0-0)は9本。そして最終戦となったチェコ戦(1-0)に至っては5本。前に出る推進力に大きく欠けた。
とはいえ、グループリーグの最大のテーマは決勝トーナメント進出だ。イングランドは最少得点差の1-0勝利を二つ積み上げ、しかも3戦連続無失点で切り抜けて2勝1分の勝ち点「7」でD組を1位通過。この結果に対しては、むしろトーナメント大会のグループリーグとしては秀逸で、なんの文句もない。
けれども、ここで筆者は二つの問題に注目する。まず一つ目の問題は監督だ。
サウスゲートはW杯優勝歴がある強豪国のなかで、2000年代にスウェーデン人のスベン・ゴラン・エリクソン、そしてスティーブ・マクラーレンを挟んでイタリア人のファビオ・カペッロを招聘し、唯一外国人監督起用歴があるイングランドが、「やはり代表監督は自国人が務めるべき」という方針を固められた時期のなか、突発的な事件が起こったことで選ばれた監督だ。
しかし――その理由についてはまたの機会に記したいと思うが、イングランドには近年監督が育っていない。それはカペッロ後、代行監督のスチュアート・ピアース、ロイ・ホジソン、サム・アラダイス、そしてサウスゲートと続く系譜を見ても明らかだろう。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。