ハンガリーがドイツに起こしかけた「奇跡」 67年前と変わらぬグッドルーザーの姿

スイスW杯の2年後に“スーパーチーム”は解体

 ハンガリーはブラジルと乱闘試合を演じ、土砂降りのウルグアイとの激闘を経て、満身創痍で決勝へ進む。プスカシュはグループリーグの西ドイツ戦で負傷していた。ファイナルは負傷を圧してプレーし、それでも先制点を取っているのはさすがだが、本調子ではなかった。

 まさか西ドイツに負けるとは思っていなかっただろう。この時は、2年後にこのスーパーチームが解体しているとは想像もしなかっただろうが、当然獲れると思っていた世界一を獲り損ねた無念さはあったに違いない。けれども映像に残るバルターを祝福するプスカシュの屈託のなさは印象的だ。

 1956年にハンガリー動乱が起こる。代表の主要メンバーで占められたホンブドは、チャンピオンズカップ(現UEFAチャンピオンズリーグ)の1回戦でアスレティック・ビルバオとアウェーで戦った後、ブダペストには戻らず亡命集金ツアーをイタリア、ポルトガル、ブラジルで行ってから解散となった。プスカシュはレアル・マドリード、チボール、コチシュはそのままバルセロナへ移籍している。この遠征中に食道楽のプスカシュは10キロも太ってしまい、レアルのサンチャゴ・ベルナベウ会長から減量命令を出されたのも、なんとなく「らしい」エピソードである。

 ベルンで奇跡を起こしたドイツは、その不屈の精神が伝統芸となり、その後のサッカー史上に大きな足跡を残す。再び相まみえた2021年6月、ハンガリーとの立場は大きく逆転していたのだが、今度はハンガリーが奇跡を起こしかけたわけだ。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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