エリクセンの心停止がサッカー界に問うもの 加速する「拝金主義」と選手の肉体的限界

EUROもW杯もCLも出場チームが増加、現代サッカーは限界に近付いている?

 そしてこれは、今年で21回目となるシーズンを通したプレミア取材で筆者が実感したことだが、この20年間で欧州のサッカーは本当に飛躍した。技術や戦術の進歩とともに、友人のグラハムが嘆いたように、サッカー選手のアスリートとしての進化ぶりは心底凄まじいと感心する。

 無論、喫煙して大酒を飲んで、徹夜で遊んで、それでも才能ある選手は試合に出る、という時代ではない。どの選手も、特に一流選手は最高のコンディションを維持するのに四苦八苦している。

 しかしこのようなサッカーの進化と同時に、いつ、どこで、誰が次に試合中に心停止するか分からないところまで、選手は体力の極限まで求められてプレーをする状況になっている。欧州スーパーリーグの問題にも共通するものだが、経済的にも選手の肉体的負担においても、現在のサッカーは限界に近づいているのではないだろうか。

 最高の試合をするためには、回復するために十分な休養を挟んだ日程が不可欠だ。しかしEUROもW杯も出場国を増やし、さらにはCLも2024-25シーズンから出場枠を現行の32から36へ拡大する意向だ。もちろん、その根底にはまさにバブル的に膨張させ続け、非常識とも言えるほど肥大したサッカー経済の問題がある。

 そうした状況もあって、ついにサッカーは選手に文字通り“命を賭けろ”という危険な競技になりつつあるのではないだろうか。

 今回のエリクセンの一件が、ピッチ上の救命作業の進歩という枝葉の部分ではなく、極限が求められる現代サッカーにおいて、選手の体と命を守る“根本的な日程の見直し”につながってほしいと願って、今後のEUROを見守っていきたいと思う今日この頃である。 

(森 昌利 / Masatoshi Mori)

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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