なでしこジャパンは英国に“勝ってはいけない”!? 東京五輪で思い描く最良のシナリオ
【識者コラム】1位通過が困難なグループ、決勝T以降を考えると2位通過が最良の結果か
女子サッカーの東京五輪代表が決まった。2011年の女子ワールドカップ(W杯)で世界一を経験した選手が2人に減り、逆に14年にU-17W杯を制したメンバーが4人、2018年にU-20W杯で優勝した選手も5人が食い込んだ。最終段階でアピールした北村菜々美や塩越柚歩が選ばれたのを見ても、高倉麻子監督が最近の成長曲線やコンディションを重視したことが分かり、就任後の代謝は急ピッチで進んだ。
確かに経験は大切で、アメリカに渡った永里優季、川澄奈穂美、さらには指揮官自身も就任以来センターバックでもテストしてきた鮫島彩らの起用に傾いても不思議はなかったが、逆に「世界と戦った経験を持つ彼女たちが物怖じするとは思えない」と、若い世代の潜在能力を信じて決然と世代交代を進めた。
だが、どんなレベルになるのか未知数の男子に比べて、女子の五輪は掛け値なしの世界一決定戦だ。W杯と五輪で3大会続けて決勝に進出した「奇跡のチームに追いつけ追い越せ」と目標を掲げても、男子のように簡単に「目標は金メダル」とは言い切れないのが実情である。
まず組み合わせを見ても、明暗の見極めが難しい。同組に英国とカナダがいて、1位通過は厳しい。特に日本は、イングランドとの相性が悪い。過去の対戦成績では1勝2分5敗と大きく負け越しており、世界一になった10年前のW杯でもグループリーグ最終戦で完敗。準々決勝では優勝候補で開催国のドイツとの対戦を強いられた。振り返れば、その10年前の取材で現地に到着して最初の試合がイングランド戦で、敗色濃厚なドイツ戦の後に帰国便を予約しようかずいぶんと悩んだものだ。結局最後まで現地に残ったことで奇跡的な瞬間を見届けることができたのだが、世界一になったなでしこでも、スピードやパワーの格差は明白だった。
さらに一昨年のW杯でも、イングランドには0-2、東京五輪ではイングランドと統一チームを形成するはずで格下のスコットランドとのゲームも2-1と辛勝だった。もっとも東京五輪のノックアウトステージ移行後の流れを読めば、むしろ苦手な英国戦は勝ってはいけない試合とも言える。
もし英国を抑えてグループEを1位通過すると、ほぼ確実に準決勝の相手がアメリカになる。対戦成績は1勝8分28敗。要するにアメリカと顔を合わせるタイミング次第で、なでしこの最終成績は大きく左右される。グループリーグで1位通過なら準決勝、2位通過なら決勝まで当たらず、ただし3位通過だとベスト8で戦う羽目になるかもしれない。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。