“本命”イングランドはお約束? EURO優勝予想に見る英国の威勢の良さと根本的問題
心ないブーイングが母国選手のやる気を削いでしまう?
しかし、英国には歴然たる人種差別があるのも事実だ。人間を人間扱いしない、そんな差別――最近ではSNS上の侮辱的な投稿が主になっているが、ラッシュフォードやスターリングはしょっちゅう、そんな嫌がらせの標的になっている。
それもクラブのためにプレーしているのなら、心ないライバルチームのサポーターの嫌がらせだと納得できるだろう。しかし母国の代表チームのために戦っているというのに、試合前に同国人でありながら、自分の人種を否定するサポーターと直面すればどんな気持ちになるのだろうか。
英国に在住するアジア人の1人としても、こうした言われなき差別は1日も早くなくなってほしいと思うが、ここ2試合で耳にしたブーイングは、ホスト国同然の有利さを帳消しにして余りある影響があるのではないかと憂慮させる。
ブックメーカーでは一番人気。それは多くのイングランドファンが、そのポケットマネーを投入して愛する母国の優勝を願っている証でもあると思う。しかし、その前に、あの心ないブーイングをやめて、決定力ある黒人選手のやる気を削がないことも大切だと、強く思う次第である。
(森 昌利 / Masatoshi Mori)
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。