名将の“電撃復帰”から見えるレアルの危機 「予期せぬチャンス」はなぜ舞い込んだのか

今年2月、アンチェロッティの身に起きていた一つの事件

 確かに現在の危機的状況を鑑みれば、これほど打ってつけの監督はいない。「アンチェロッティ」というその名もしっかりレアルの看板と釣り合い、しかも自分の理想よりクラブの実情を理解する現実主義者である。

 けれども、とてもじゃないが、これから黄金時代を築く、という意気込みを含んだ監督人事には見えない。

 それに、これはあくまで余談だが、今回アンチェロッティがエバートンのサポーターに向けたメッセージの中に、「私と私の家族に向けて最良の転身だと信じている」という箇所を読んで思い当たったことがあった。

 それは今年の2月、アンチェロティの自宅に2人組の強盗が押し入り、金庫を奪って逃げるという事件が発生したことだ。リバプールでは、2007年にスティーブン・ジェラードの自宅が強盗に襲われるという事件もあり、リッチなサッカー選手、監督がこうした犯罪のターゲットとなることがままある。

 割と頻繁に起こるので、リバプールサポーターの犯罪者とエバートンのサポーターである犯罪者が、憎きダービー相手の士気を落とすためにこうした事件を交互に起こすのではないかと勘繰ってしまう。

 それはさておき、自分の国でだって強盗に押し込まれたら震え上がるのに、それが外国だったらどうだろう。一度は自分を冷たく解任したペレス会長に対し、アンチェロッティがまるで尻尾を振るように、そのオファーに即答した背景には、3カ月前に起こったこの強盗事件の記憶がまだ鮮明だったこともあるのではないだろうかと、これもまた勘繰ってしまった次第である。
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(森 昌利 / Masatoshi Mori)



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森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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