名将の“電撃復帰”から見えるレアルの危機 「予期せぬチャンス」はなぜ舞い込んだのか
“中間管理職”としての才能も折り紙付き、6年前に解任も遺恨なし?
レアルへの出戻りが決まった翌2日の英メディアには、アンチェロッティの「予期せぬチャンス」というコメントが踊った。
まあ、この一言を素直に信じれば、本人でさえ、ジネディーヌ・ジダン後のレアル監督の座が自分に回ってくるとは、全く予想していなかったことが分かる。
そして、監督就任会見でレアルを「世界最高のクラブ」と呼んだ時、移籍後のセルヒオ・アグエロが「世界一のクラブ」とバルセロナを称えたのと同じ白々しさを感じてしまった。
そう、正直、日本円にして1350億円の負債があると言われるバルセロナと同様、レアルも“世界最高”などと言っていられる状況ではない。フロレンティーノ・ペレス会長自身が、過去2年で負債が4億ユーロ(約532億円)に上ることを明かし、欧州スーパーリーグ発足の大ギャンブルに打って出たが、現在の混迷は周知の通り。UEFA(欧州サッカー連盟)との抗争は最終局面に入り、このまま事態を収拾できず最悪のケースとなれば2年間の欧州カップ戦出場停止は必至だ。それこそ、クラブを崩壊寸前の危機まで追い詰めることになる。
そうした混乱のなか、前任のジダン監督は「クラブにサポートされているとは思えない」とファンに宛てた書簡を発表して、選手時代からの愛着が詰まったエル・ブランコを去った。
ジダンの主張も分かるが、それも普通に現状を見つめたら、経営側が来季のサポートを約束できないのも無理のない話。今のペレス会長は、スーパーリーグ問題に対応するだけで精一杯。とてもじゃないが、来季のチーム構想に手が回る余裕はない。
こうした状況で、アンチェロッティである。
冒頭に戻るが、その実績は文句なし。選手の受けは素晴らしい監督である。しかもACミラン時代に元イタリア首相で剛腕、曲者オーナーとしても有名なシルビオ・ベルルスコーニ氏の下で監督を務め、問題あるボスと現場をつなぐ“中間管理職”としての才能も折り紙付きだ。
その才能は、2013-14シーズンに歴史的な10回目のCL優勝を成し遂げながらも、翌シーズン、主要タイトルで無冠に終わるとあっさり解任したペレス会長との関係からも見て取れる。普通なら、あれだけ冷酷に解任されたら遺恨が残るもの。それに解任したほうにも後味の悪さやわだかまりが残るものだろう。しかし今回の監督就任を見ると、6年前の後遺症が全く見られない。これも人徳というものなのか。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。