「必ず次につながる」 震災から1カ月、止まっていた時計の針が動き出した、熊本の今季2度目の開幕戦
それでも、彼らは最後まで戦い抜いた…
キックオフと同時にロアッソ熊本の赤いユニフォームが躍動する。ジェフ千葉陣内へのハイボールのほとんどすべてに巻が競り合いに行く。セカンドボールを拾うために平繁龍一が、清武功暉が必死に動き回る。競り合いで頭を強打して倒れ込み、一時プレー続行不能を示す×印の合図まで出たが、それでも巻は立ち上がってピッチに戻った。
ロアッソ熊本の誰もが、この日の試合が自分たちだけでなく、自分たちを育ててくれた熊本で今も被災に苦しんでいる人々に勇気を届けるために戦うのだという覚悟を持って臨んでいた。
しかし、その勢いは徐々に衰えていった。この試合の直前まで12試合を重ねているジェフ千葉に対し、ロアッソ熊本が重ねた試合数はほぼ半分の7。そこに、不十分な練習環境と、1000回を大きく超える余震から起こるストレスが加わっていた日常が、選手のコンディションを狂わせていたのは想像に難くない。
それでも、彼らは戦い抜いた。途中交代で入ったスピードスター齋藤恵太は、交代後わずか数分で相手と激しく衝突し、しばらくピッチに倒れ込んだまま。立ち上がった後も顔をしかめる状態ながら、試合終了の笛が鳴るまでゴールを目指して走り続けた。試合後、齋藤は肩を固定され足を引きずりながらこう話した。
「もしかしたら(肩の骨が)折れちゃってるかもしれません。試合中も痛くて動かせなかった。だからもう一方の手を必死で振って走りましたよ。どんなに痛くたって自分からプレー止められるわけないじゃないですか」
仙台大学出身で過去に被災経験がある齋藤は、被災後すぐに募金活動を行うために仙台と、昨年までプレーしていた福島に戻った。齋藤は帰り際にこう言った。
「腕が折れていたって、それでも自分ができることがあるのであれば何でもやりますよ」
試合は0-2でジェフ千葉の完勝に終わった。しかし試合終了後の両チームにも、それを応援し続けた両サポーターたちにも、勝敗結果以上の何かを感じさせる一戦だった。