吉田麻也の決意 アウェーでブーイングの標的になった日本代表DFの意思表示
クーマン監督も指摘する集中力という課題
頭ひとつ抜けていたロブレンが去ったと思ったら、今度はベルギー代表のレギュラーがやって来た。しかしこうした厳しい状況も、麻也は“これもプレミアの現実”と受け入れる。強力なライバルの登場は気持ちを引き締めた。そして自分の課題は、「集中力の部分。そこさえしっかりしてれば、(集中力を)途切らせずにやれれば良いパフォーマンスが出せる」ときっぱり。90分を戦い抜く精神力を今季こそ手に入れると誓った。
吉田麻也が大器であることはみんなが分かっている。189センチの見事な体躯と素晴らしい左足。センターバックとしては「優雅すぎる」といっていいほどのボールさばきを見せる。
しかし確かに精神的な部分、集中力という課題は存在する。クーマン監督も3-1勝利を飾ったニューカッスル戦後、麻也のパフォーマンスに関して「満足している」と語りながら、「集中力に疑問を感じさせるパスもあった」と話し、吉田の精神面に注文を出していた。
けれども今の麻也には不安の表情がない。最近ではピッチ上でも英語で、日本語で「ちくしょう」に当たる強い言葉が自然に湧いてくるという。それも「自分の意思を伝えることは、とくに僕のポジションは大事なんで」と意に介さない。
そんな麻也の姿を今季直接見るのは3度目だったが、W杯を境に、どこか図太くなった印象があった。そこでその印象の変化について、直接質問をぶつけてみた。
「変わった? ひげが生えたくらいですよ(笑)。環境が人をつくりますからね。(肝っ玉が太くなったように見える?)何人かそういうふうにいう人がいます。(W杯を境に)もっと純粋に勝ちたいとか、うまくなりたいという欲は強くなったというか、うん。ネガティブなこと考えてもネガティブな結果しか出てこないし、やっぱり新しい選手が入って、その人のミス待ちをするよりも、自分がその人のパフォーマンスを超えることのみにエネルギーを注ぐというふうに、考え方をシンプルにしました」
確かにひげを生やして、サムライらしい風貌にもなったが、麻也は“とにかく自分を磨く”、またどんな相手との競争になっても自分のパフォーマンスのレベルで対抗するだけという境地に達していた。
ボニの反則タックルで足首をひねり、前半だけの出場に終ったスウォンジー戦だったが、その戦う意思がにじみ出た存在感は昨季より迫力が増していた。
9月になって香川が去り、宮市も去ったプレミアで、ひとり残った日本の大器は今、イングランドの激しい戦場で極限の集中力を身につけて、ベルギー代表やルーマニア代表との競争にもまれながら、さらなる成長を遂げることをしっかり誓っていた。
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森昌利●文 text by Masatoshi Mori