強硬な名門3クラブ、近づく“最悪の結末” 負債額は数百億円…UEFAに徹底抗戦の背景
【英国発ニュースの“深層”】UEFAの最後通告をレアル、バルセロナ、ユベントスは敢然とはねつけた
今月中旬に欧州スーパーリーグ(SL)構想からの撤退を表明していないレアル・マドリード、バルセロナ、ユベントスとUEFA(欧州サッカー連盟)の争いを「チキンレース」(2台の車がお互いに向かって一直線に走るレース。どちらかが恐怖に負け、ハンドルを切って相手を避けると敗北)のようだと記したが、いよいよその無謀な戦いが正面衝突の“クラッシュ”という、ファン無視としか言いようがない最悪の結末に近づいている。
5月23日にプレミアリーグの全日程が終了し、ヨーロッパの主要国内リーグが幕を閉じて26日はUEFAヨーロッパリーグ(EL)決勝、そして29日にはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝が行われるという今週早々、しびれを切らしたかのようにUEFAが声明を発表、問題の3クラブに対し「懲戒手続きを開始する」と最後通告を行った。
懲戒内容はUEFAが主催する欧州カップ戦から“2年間の追放”という見方が大方を占めているが、これに対し26日、レアル・マドリード、バルセロナ、ユベントスの3クラブが共同声明を発表。「UEFAの執拗な強制を拒絶する」という強い言葉で、最後通告を敢然とはねつけた。“ハンドルは切らない”という意思表示である。
常識的に、今回のチキンレースがクラッシュせずに終わる可能性は二つ。一つはUEFA側が「3クラブに対する処分はなし」と、ハンドルを切るケースだろう。
しかし、残念ながらこれはあり得ない。なぜなら、もうすでにプレミアの6クラブを含めた9クラブが、“もう二度とこういうことは致しません。もしもまた欧州SL発足に参加した場合は1億ユーロ(約134億円)を即支払います”という誓約書にサインして、UEFAに詫びを入れ、1500万ユーロ(約20億円)と来季の欧州カップ戦から得る収益の5%を欧州のサッカー・グラスルーツに寄付することで手打ちをしたからだ。
もしもレアル、バルセロナ、ユベントスが他の9クラブと同様の処罰を飲まなければ、単純に示しがつかないことになり、実現は難しい。
正面衝突を避ける二つ目のケースは、3クラブが他の9クラブと同様の処罰を受け入れることだ。
正直な話、いなくなったらその不在感は非常に大きいこの3クラブを、欧州カップ戦から2年も追放するという最悪の事態を避けるためにはこの方法しかない。1500万ユーロ+来季の欧州カップ戦の収益の5%という罰金(しかもグラスルーツへの寄付という形にして罰金というニュアンスを薄めている)は、今回の欧州SL発足が公表されて巻き起こった最大風速の非難の嵐の中で、「今回SL発足に絡んだ全12クラブを2部リーグに即降格」「1億ユーロ級の罰金」等々、様々な関係者が主張、または予測した処罰からしたら、非常にソフトで軽いという印象だ。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。