清水の新エース&“申し子”が復活 10戦ぶり勝利を呼び込んだロティーナ流の連動守備

3得点は良い守備があったからこそ、ボランチの活躍が戦術の肝

 中村はV・ファーレン長崎から移籍して3年目。攻撃に関してはドリブルで相手を剥がしてチャンスを演出し、利き足の右足から蹴り出されるボールはこの試合でもCKから2アシストを決めている。ただ、これまでは守備面での粘りが足りなかったが、この日の守備意識は高く、今まで見たことがないほどの形相で対峙する相手を止めていた。それぞれの得意でない部分に積極性が出たことで、2人とも今シーズンのベストなプレーができたと思っている。

 今シーズンのボランチの核と考えられていたMFヘナト・アウグストが、古傷の左膝関節軟骨損傷の治療のためブラジルへ一時帰国となり、まだ復帰の目途は立っていない。攻守においてタスクが多いボランチがロティーナ監督の戦術の肝だと思うが、今日のプレーを続けることができれば、この2ボランチにかかる期待はさらに大きくなるだろう。

 そして、何よりも全選手のハードワークが結果につながった。最近の試合では守備の人数はいる。ラインも揃い、スペースも埋めている。でも、それだけのように見えていた。ロティーナ監督の守備戦術は「ポジショナルプレー」という正しいポジションを取り続け、相手に隙を与えないというものだが、ただそのポジションにいるだけになっていた。相手は何もその守備組織に脅威を感じていなかったのではないだろうか。それが、この試合では以前にやれていた連動した強固な守備ができていた。確かにFC東京の2連勝の勢いが息切れした感はあったが、3得点できたのも良い守備があったからこそだと思っている。

 10試合ぶりの白星は今季のホーム初勝利となった。約23年ぶりの「皆既月食」と「スーパームーン」の天体ショーはスタジアムで確認することはできなかったが、平日のナイターに「9戦勝ちなし」の状況でも勝利を信じてスタジアムに訪れた5000人近いサポーターはそれ以上の久しぶりの勝利と喜びをわかちあえた。しかし、まだ今シーズンの3勝目を挙げただけ。この勝利がきっかけになってくれることを疑わないが、クラブの基本理念である「わかちあう夢と感動と誇り」の中に「エスパルスは、正々堂々と情熱をもって戦い、地域の誇りとなる最強のチームを目指します」とある。来年には創立30周年を迎えるクラブは、この基本理念の達成を目指して確実な歩みを進めてほしい。

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下舘浩久

しもだて・ひろひさ/1964年、静岡市(旧清水市)生まれ。地元一般企業に就職、総務人事部門で勤務後、ウエブサイト「Sの極み」(清水エスパルス応援メディア)創設者の大場健司氏の急逝に伴い、2010年にフリーランスに転身。サイトを引き継ぎ、クラブに密着して選手の生の声を届けている。

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