東大サッカー部、異例の挑戦 “学生GM”が元Jリーガー監督を招聘、世界的企業とも契約
今年1月に林陵平監督を招聘、現役東大生の“強化ユニット長”が語るチーム運営
東京大学運動会ア式蹴球部(体育会サッカー部)は今年1月、2020シーズン限りで現役引退を発表したばかりだった林陵平氏を新監督として招聘し、話題を呼んだ。異例の抜擢を実現させたのは、学生主体の“強化部”の働きだった。強化ユニット長を務めるテクニカルスタッフ、高橋俊哉(3年生)に学生主体のチーム運営について話を聞いた。(取材・文=石川 遼)
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東大ア式蹴球部は2020年シーズンに東京都大学サッカーリーグ戦2部で2位となり、1部昇格を決めた。それまで3年間にわたってチームを率いたのは山口遼前監督だが、昨季限りで退任となった。悲願の関東リーグ昇格を目指す今季、新監督に任命されたのが2020シーズンを最後に現役を引退したばかりの林氏だった。
引退直後の元Jリーガーの登用は部としても異例のことだったが、それを実現させたのが、高橋がユニット長を務める東大ア式蹴球部の強化ユニットだ。プロクラブでいえば強化ユニットは強化部、高橋はゼネラルマネジャー(GM)といった役割だろう。特徴はユニットメンバーの全員が学生で、テクニカルスタッフと選手ら約10名で構成されている点にある。
学生の自主性を重んじる傾向は近年の大学スポーツ界で多く見られるようになったものだが、学生自らが監督招聘や年俸などの交渉を行うことは、極めて珍しいケースと言える。この強化ユニットは昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、東大ア式蹴球部も活動の中断を余儀なくされていたなかで立ち上がった。
そのきっかけは山口前監督からの提案だったという。高橋が「最初は他の大学がどのようにしているのかを聞くことから始めました」と言うように、全くの手探りの状態からスタートした。
「山口前監督が退任することは昨年の春頃に決まっていたんですが、そこで山口前監督から次の監督は自分たちで決めたらどうかと言われました。その流れで僕が強化ユニット長となり、4年生のGK染谷(大河)とともに中心となって学生主体で動くことになりました。僕自身は昔からそういう仕事に興味はあって、それは山口前監督にも話していました」
もちろん、すべてが順調に進んだわけではなかった。当初はOBコーチを中心とした体制にする案もあったが「それでは問題を先延ばしにするだけ」(高橋)と、長期的な視点を持って人選に当たった。強化ユニットのメンバーのコネクションを生かして監督候補をリストアップし、昨年の秋頃から数名と実際に交渉をしていたが、行き詰まりを感じていた頃に飛び込んできたのが「林陵平選手の引退」というニュースだった。