高校時代のトレーナーが語る U-21日本代表を決勝トーナメントに導いたミラン本田ばりのMF野津田の一撃の秘密
「トレーニングを積んでもできない、静から動の一瞬の切り替え」
U-21日本代表は21日、仁川・アジア大会1次リーグ最終戦ネパール戦で、4-0で快勝を収めた。その決勝弾となった強烈無比な一振りは、ACミランMF本田圭佑を彷彿とさせる威力と弾道を誇った。
勝てば決勝ラウンド進出が決まる一戦で、U-21日本代表は序盤、格下相手に攻めあぐねていた。
膠着状態だった前半33分、2試合ぶりの先発となった広島MF野津田岳人が試合を決めた。
湘南MF遠藤航からのパスを受けると、ゴール前で左足を素早く振った。足元を離れた、高速の弾丸は軌道を変えながら、バーの下を叩きゴールへと吸い込まれた。ネパール以上の格上も防げたかどうか、分からないほどのワールドクラスの一撃だった。試合後、野津田は淡々と語った。
「相手が引いてブロックを作る中で、シュートだけを考えて打った。先制できてよかった。あれは自分にとって得意の形。自信を持って決められる」
20日のユベントス戦で開幕3試合連続ゴールを逃したMF本田圭佑と同じ武器を持っているのだ。豪快な左足。その若きMFも日本代表をけん引する先達を意識している。
「ポジションも同じで同じ左利き。目標にする存在。『ああいうプレーができれば』と、シーン毎に見ている。自分で決め切るところ。攻撃をリードしてチャンスメークする姿勢が参考になる」
このゴールだけではない。後半25分には、正確なクロスで新潟FW鈴木武蔵の2点目をアシストするなど、1得点1アシストで勝利に貢献した。
そんな野津田には生まれ持った武器があるという。野津田は、広島ユース時代に高円宮杯3連覇に貢献した際、チームのコンディショニングアドバイザーを務めていたプロトレーナーの木場克己氏には輝くものが見えた。
「当時は体幹もブレていて、筋肉系の怪我も多かった。ミドルシュートを打つ時も体の軸が安定していませんでしたが、一瞬の体の動き、反応は速かった。静から動の一瞬の切り替えは、なかなかトレーニングを積んでもできるものではありません。いいセンスだなと感じました」
野津田の高校時代を知る木場氏は、インテルDF長友佑都、なでしこジャパン大儀見優季ら、多くのトップアスリートの専属トレーナーを務めている。一流を知る男にも原石のまばゆさは感じたようだ。
この日、得点となったミドルシュートが、まさにそれが光った瞬間だった。ボールを持ち出してから、シュートモーションまでの無駄のない動作は、実にスムーズだった。本人も自信を持って「自らの形」と言い切るだけのことはある。
「ただ、それ以外(フリーでヘッドを外した場面など)で決められなかったのは悔しい。1試合1試合が決勝のつもりで戦っている。今までも決めるチャンスはあった。やっと1点取れて良かった。自信にもなったし、勢いにもつながっていくと思う」
本田のような強気な言葉はない。静かなるスーパーレフティがアジア大会連覇にチームを導く。
木場克己(こば・かつみ)
1965年12月、鹿児島県生まれ。アスリートウェーブ鍼灸整骨院アドバイザー、コバメディカルジャパン代表で体幹トレの第一人者。長友佑都、大儀見優季、熊谷紗希、金崎夢生らの専属トレーナー。9月に木場克己オフィシャルサイト(http://www.kobakatsumi.jp)を立ち上げ、「コバトレ」と呼ばれる独自のメソッドを育成年代に伝えようと研究を重ねる。
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サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web