永遠のヒーローか裏切り者か 英国で繰り返される“クラブの象徴”を悩ます究極の選択

ジェラードの時に起きたような大規模な抗議運動も?

 プレミアリーグでは2005年のスティーブン・ジェラード。地元出身でリバプールの絶対的主将。チェルシー移籍が決まったと報じられて、サポーターの大規模なデモに発展した。しかし移籍報道の24時間後に残留を発表して、事なきを得た。

 またアラン・シアラーはマンチェスター・ユナイテッドからの勧誘を2度も拒絶し、最終的にはブラックバーンから生まれ故郷のニューカッスルへ移籍して郷土の英雄となる。

 さらに1990年代、MFながら類稀な両足使いで高い得点能力を見せた天才マット・ル・ティシエは、サウサンプトンにその選手生命のすべてを捧げ「セイント・マット」(聖なるマット)と呼ばれ、今も愛され続ける存在である。ちなみにシアラー、ル・ティシエともに、スタジアムに銅像が立っている。

 ケインも残留なら、彼自身も子供時代から愛し続けてきたトッテナムで永遠のヒーローとなることは間違いない。

 しかし出て行けば、念願のトロフィーに手をかけるチャンスが大きく広がる。地元報道ではユナイテッド、もしくはシティの、マンチェスターの両クラブがケイン獲得に一歩前進しているという。

 となると、ケインの移籍がすんなりといかない可能性も大。やっぱりサポーターとしては、愛するケインがプレミア内のライバルに引き抜かれるのは耐えられない。

 ジェラードがチェルシーのユニフォームを着てアンフィールドに戻ってくる――なんてことが頭から許せなかったリバプールサポーターと同様、ケインがユナイテッドやシティ、ましてやチェルシーのユニフォームを着て、新築したばかりの本拠地に帰ってくることなんか許せるわけがない。

 最悪出ていかれるとしても海外のクラブ。それも途方もない移籍金が入ってこないと納得できない。それが、サポーターの偽りのない気持ちだ。

 もしプレミア内のライバルクラブへの移籍が確定しかけたら……、欧州スーパーリーグへの抗議も再燃し、ケインの残留を求めてトッテナムサポーターが、凄まじくも激しい抗議運動を起こすことになりそうだ。

(森 昌利 / Masatoshi Mori)



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森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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