永遠のヒーローか裏切り者か 英国で繰り返される“クラブの象徴”を悩ます究極の選択
【英国発ニュースの“深層”】ケインが移籍希望、英メディアを賑わせた「留まるべきか行くべきか」の常套句
1981年に英パンクロックバンドの「クラッシュ」がリリースした名曲『Should I Stay or Should I Go』(留まるべきか行くべきか)のタイトルはその後、ハリー・ケインのような状況が生まれるたびに、英国のスポーツメディアが常套句として使用する。
今週の月曜日にスカイ・スポーツが報じ、世界的なニュースとなったイングランド代表FWハリー・ケインの移籍希望。するとBBCが『Tottenham: Harry Kane – should he stay or should he go?』(トッテナム:ハリー・ケイン-残留すべきか行くべきか?)と、すかさずクラッシュの名曲タイトルを使って見出しをつけ、ケインの状況を記事にした。
この記事によると、まだケインは正式な移籍願いをトッテナム経営陣に手渡してはいないようである。ただし、ケインはクラブ(すなわちダニエル・レヴィ会長だろう)と“紳士協定”を結んでおり、今夏の移籍は認められると考えているようだ。
実は昨夏もケインは移籍を考慮したという。しかし一昨季の途中に就任した名将ジョゼ・モウリーニョから、「本腰を入れて1年間指揮を執る。だから今季いっぱい、様子を見てくれ」と説得され残留。しかし去る4月19日、ケインとの関係も良好と伝えられたポルトガル人闘将が解任。その6日後の25日に行われたリーグカップ決勝でマンチェスター・シティに敗れ、先月は欧州スーパーリーグ(SL)騒動にも巻き込まれたうえに、トッテナムは今、来季のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権の獲得も絶望的な状況だ。
こんな有様では、27歳となり“優勝トロフィーを熱望する”ケインが新天地を求めたとしても、レヴィ会長は文句を言えない。
しかしサポーターは違う。現在のトッテナムの象徴。生え抜きスターで主将。しかもイングランド代表でも主将。たとえチームが2年前のCL決勝や今季のリーグカップ決勝で敗れても、ケインがいればそうした屈辱にも耐えられるという絶対的存在だ。
そこで『留まるべきか行くべきか』なのである。
過去、こうしたクラブの象徴的存在が、移籍寸前まで行きながら優勝に手が届かないクラブに残り、永遠のヒーローとなった選手もいる。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。