低迷アーセナルの救世主に? “3000億円超”買収オファーにサポーターが夢を抱く理由

Spotify(スポティファイ)の創業者CEOであるダニエル・エク氏【写真:Getty Images】
Spotify(スポティファイ)の創業者CEOであるダニエル・エク氏【写真:Getty Images】

アーセナルファンであるエク氏はサポーターにとって理想のオーナー像

 英大衆紙「ザ・サン」が掲載した記事を読むと、アーセナルが「エク氏からの正式オファーはない」とメディア対応したことに対し、スポティファイCEO本人がツイッターで反論。クロンケ側から届いた「金銭には関心がない」という買収拒否理由も明かして、オファーを出したことを明らかにしたのだ。

 この暴露も、エク氏が本気でアーセナルを買い取りたいと思っていることを証明した行為だと見られるが、これで今後もアーセナルサポーターがオーナーのクロンケに対し、激しい抗議運動を繰り広げることが必至となった。

 その最大の理由は前述したように、エク氏がアーセナルのファンであること。まさにこれは、サポーターにとって理想のオーナー像の第一条件である。

 一方、残念ながら現在のオーナーであるクロンケの場合(ユナイテッドのグレイザー一家、リバプールのジョン・ヘンリーとも共通するが)、アメリカでスポーツ投機を成功させた大富豪が、結局は母国で自分をさらにリッチにした同様の投機目的でイングランドのサッカークラブを買収した。

 しかし、これはもちろん英国側にも問題がある。ドイツのようにサポーターが50%の経営権を持つケースであれば、個人のオーナーの意思でクラブの売買はできないし、入場料の設定もできない。

 ところが英国人は外国人も含め、個人所有を認めた。それで例えばチェルシーやシティ、さらには先週FAカップを制したレスターのように、サッカーに愛情を持つオーナーがタニマチ的な存在となり、惜しげもなく私財を投入してチームを強くするという好結果をもたらすこともある。

 ただし、その一方で個人所有を認めたわけだから、クラブを私物化されても文句は言えない。

 グレイザー一家にしてもスタン・クロンケにしても、途方もない金額を投入してイングランドの強豪クラブを手にしたわけだから、その恩恵を求める権利はあるはずだ。

 しかし、イングランドのフットボールクラブにまつわる伝統的な意識がそれを許さない。それは元々フットボールクラブがその共同体における、まさにコミュニケーションのプラットフォームであることに起因する意識である。

 ホームゲームがあるたびに、地元の“おらがチーム”の応援に人が集まり、お互いが顔を合わせる。この150年の積み重ねが英国におけるフットボール熱の根源になっている。

 どうして現在でも、英国のどの街にもフットボールクラブがあり、そのクラブを応援するサポーターが必ずいるのか。それは7~8世代にわたって熱烈に続く、英国男子が生まれた街のクラブを全身全霊で応援する宿命にある。

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森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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