まるで温かい“家族”…レスターのFA杯初制覇に感激 超絶プレーを生んだ優勝への情熱
ピッチに下りたタイ人オーナーも一緒に歓喜、レスターこそFA杯王者にふさわしい
それはまずレスターのアイヤワット・スリバダナプラバ・オーナーが、試合終了後に胸の前で手を合わせて、天を見上げた場面。2018年10月29日、父のビチャイ・スリバダナプラバ・前オーナーが死亡したヘリコプター墜落事故は世界に衝撃を与えたが、チャンピオンシップ(英2部リーグ)に定着しつつあったレスターに惜しげもなく私財を投入し、プレミアに引き上げて奇跡のリーグ優勝を成し遂げた偉大な父に、天を仰いで2016年に続く大勝利の報告をしたシーンがテレビ画面に大写しとなった時、レスターファンならずとも、感動を覚えた人は少なからずいたに違いない。
そしてその小太りの小さなタイ人が観客席からピッチに駆け下りると、まずはベテランのモーガンとしっかりと抱擁。そしてブレンダン・ロジャーズ監督とも涙が滲んだ目でがっちりと抱き合った。さらにはシュマイケルに優勝トロフィーを手渡され、選手の作った輪の中央で、そのトロフィーを高々と掲げた。そしてその後も選手と一緒に飛び跳ねながら「カンピオーネ! カンピオーネ!」と大合唱していた。
この光景を見て、レスターこそ今回のFAカップ優勝にふさわしいチームだと思った。例えば、今回の欧州スーパーリーグ騒動に加わったオーナー連中や経営者が、こうして選手とともに優勝のセレブレーションに加わるシーンが想像できるだろうか。グレイザー一家が、スタン・クロンケが、ダニエル・レヴィ会長が、ジョン・ヘンリーやアブダビのロイヤル・ファミリーが、こうやって自分のチームの優勝を祝うことができるのだろうか。
もちろん、チェルシーのオーナーであるロマン・アブラモビッチにしても、きっとできないし、やろうとしないだろう。
残念ながら、昨年に続けて決勝で負けたチェルシーには、そうしたトップの意気込みからして、レスターほどの優勝への意欲がなかったと言うしかない。
もちろん、FAカップの優勝賞金は200万ポンド足らず(約3億1600万円)。年々優勝の重みがなくなっているのは分かるし、まさしく入ってくる金額の桁が違うプレミアやUEFAチャンピオンズリーグにビッグクラブが全勢力を傾けるのも当然だろう。しかし戦力差で勝ち進んだとしても、やはりそれだけでは決勝の舞台で勝利の女神は微笑まないようだ。
今回、オーナーが試合後に見せた歓喜で証明したように、今回のレスターにはFAカップ優勝にかける情熱でチェルシーを勝っていたことは明らかだった。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。