“237億円”補強報道とロシア人オーナーへの支持 騒動後に際立つチェルシーの盤石な姿
【英国発ニュースの“深層”】トゥヘル監督の就任後に大躍進、今夏大型補強の噂も再浮上
今朝見つけた英メディアの見出しの中で、最も威勢の良かったものは英大衆紙「ザ・サン」の「トゥヘル、今夏に1億5000万ポンド(約237億円)の補強予算――ハーランド、ルカク獲得を視野へ」というものだった。
確かにトーマス・トゥヘル監督の招聘以来、チェルシーがガラッと変わった。これほど明確に監督交代の効果が現れたケースも珍しい。実際、超一流監督を起用し続けているチェルシーだが、新監督就任でこれほどムードが良くなったのは、それこそ2004年のジョゼ・モウリーニョ以来ではないだろうか。
ご存知の通り、トゥヘルはフランク・ランパード前監督の解任時点でプレミアリーグ8位に沈んでいたチームを4位に押し上げ、FAカップ、そしてUEFAチャンピオンズリーグ(CL)の決勝に導いた。チームのレジェンドだったランパードを切り捨て、今季の期待値は限りなくゼロに近かったところから、この大躍進。オーナーであるロマン・アブラモビッチの財布の紐も緩むのも大いに分かる。
とはいえ、まずこの報道で気になった点は、見出しにも含まれているように、チェルシーがドルトムントのノルウェー代表FWアーリング・ブラウト・ハーランドの獲得に乗り出すということだった。というのも、この「ザ・サン」紙を含め、3月4日時点で英タブロイドメディアが20歳の“怪物”FWの「チェルシー移籍はない」と一斉に報じていたからだ。
根拠はドイツ紙「ビルト」の報道。ハーランドはプレミア、リーガ・エスパニョーラ、セリエAの優勝争いをするクラブにしか行かないというものだった。
そして行き先はプレミアからはリバプール、マンチェスター・シティとマンチェスター・ユナイテッドの3クラブ。これにレアル・マドリード、バルセロナ、ユベントスの3クラブを加えた6クラブの中から選ばれるとしていた。
もちろん、この報道が流れた時点では、チェルシーの来季CL出場はかなり危ぶまれていたし、ハーランドの代理人を務める“スーパー・エージェント”の1人、ミノ・ライオラの強気の姿勢からすれば、こうした記事が出たのも理解できる。
しかし、フットボールの世界は一寸先は闇だ。ほんの2~3カ月の未来に何が起こるか分からない。
トゥヘル就任でチェルシーがあっという間に再生したこともあるが、やはり今回のチェルシーのハーランド獲得報道も、欧州スーパーリーグ(SL)発足と破綻の波紋が生んだものではないだろうか。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。