良いチームも「金で買える」時代 チェルシーとマンCを愛するファンの誇りと哀愁
【識者コラム】CL決勝に進出したチェルシーとマンC、衰退したクラブに突如現れた救世主
ベラ・グットマンがベンフィカの監督に就任した時、会長は白紙の小切手を渡し、「これで選手を買ってこい」と言った。ところが、グットマン監督が獲得した選手はたった2人だけ。納得のいかない会長に50年代の「ジョゼ・モウリーニョ」はこう言ったそうだ。
「会長、良い選手は買えますが、良いチームは金では買えないんですよ」
ベンフィカ黄金時代を築いたグットマンの有名な言葉だが、現代のサッカーには意味を持たなくなっている。そう、「良いチーム」も金で買えるからだ。
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝に進んだチェルシーとマンチェスター・シティは、マネーの力で変わった典型である。
1981年、チェルシーの株を買い集めるためにケン・ベイツが払った金はたったの1ポンドだった。つまりタダである。もちろんタダほど高いものはない。もれなく莫大な負債がついてきた。
ベイツ新会長は精力的に財政立て直しにかかる。狙いは中産階級の取り込みだった。ご存知のとおり、イングランドのサッカーは労働者のスポーツである。チェルシーのあるキングス・ロード界隈はロンドンで最も地価が高い地域だと言われていた。リッチな街の労働者のクラブという“ねじれ”が不味かったのか、フーリガンが跋扈している時代のチェルシーは最も凶暴なサポーターで知られていた。
ベイツ会長は「チェルシー・ビレッジ」と名付けたホテル兼ショッピングセンターをスタンフォード・ブリッジの隣に建設し、この界隈の中産層であるレストラン業などで財を築いたイタリア人を取り込むために、ジャンルカ・ビアリやジャンフランコ・ゾラを獲得している。
泥臭い庶民派クラブからオシャレなイメージへの変身は果たせたが、内情は火の車。100万ポンド(約1億5000万円)の負債とともに、ケン・ベイツは撤退を余儀なくされた。
このまま終わっていたら現在のチェルシーはない。クラブは確実に破産していた。ところが、ここで思いがけないオーナーが現れるのだ。
ロマン・アブラモビッチ――世界五指に入ると言われた謎のロシア人大富豪だった。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。