激震フランクフルトはどこへ向かう? 監督と首脳陣退任…来季問われる土台作りの真価
【ドイツ発コラム】毎年のように主力流出も…ボビッチ氏らを中心としたフランクフルトは的確な戦力補強に成功
元日本代表MF長谷部誠と日本代表MF鎌田大地が所属するフランクフルトは、この数年間、毎年のように主力選手の移籍がありながら、自分たちの経営基盤で動ける範囲で的確な戦力補強に成功している。
2016年、守備の要だったDFカルロス・サンブラーノがクラブを去ることになったが、19歳のDFヘスス・バジェホをレアル・マドリードからレンタル補強。17年にストライカーだったFWハリス・セフェロビッチが移籍するとFWセバスティアン・アレがその穴を十二分に埋めた。
17-18シーズンにDFBポカールで優勝するとトップクラブからの注目を集め、GKルーカス・フラデツキー(→レバークーゼン)、FWケビン=プリンス・ボアテング(→サッスオーロ)、FWマリウス・ヴォルフ(→ドルトムント)ら主力が引き抜かれていったが、GKケビン・トラップ、MFフィリップ・コスティッチ、DFマルティン・ヒンターエッガー、DFエヴァン・ヌディカ、MFセバスティアン・ローデと次々に新戦力補強に成功すると、彼らがその後中心選手へと成長していく。19年には前年驚異のオフェンストリオとしてクラブの躍進を支えたFWルカ・ヨビッチ(→レアル・マドリード)、FWアンテ・レビッチ(→ACミラン)、アレ(→ウェストハム)がいなくなったものの、FWアンドレ・シウバ、MFジブリル・ソウ、そして鎌田が確かな存在感を示している。
来季に向けても、ウニオン・ベルリンの左サイドバック(SB)を務めるDFクリストファー・レンツと、トルコの19歳逸材FWアリ・アクマンの獲得が決まっている。どちらもかかった移籍金はゼロ。獲得は自分たちだけで決めたりはしない。
重要なのは、やはり監督からのゴーサインだ。強化部主導の移籍はフランクフルトではありえない。そうしたネットワーク、コミュニケーションも今ではデジタル化が進んでおり、相互間のやり取りが非常にスムーズになっているという。
16年からフランクフルトで代表取締役を務めているフレディ・ボビッチは、この5年間でクラブの将来に向けた土台作りを大切にしてきた。
クラブフィロソフィーが大事というのは誰でも知っている。でも、そのフィロソフィーがどこまで浸透しているだろう。主観的な判断でしか測れない。だからこそボビッチを中心としたプロジェクトチームは、フランクフルトに関わる誰もが明確に自分たちの立ち位置、目的、方向性を共通認識として持てるように取り組んできたのだ。
「決定的な要素は、これまでクラブにいた人たちと、これからクラブに来る人たちとの知識と成功を融合させること。そのために重要なポストにいる人が一定期間しっかりと留まり、どんな変化があったとしても、フィロソフィーがしっかりとクラブに残ること。フランクフルトのフィロソフィーを実践できるために、取り組み続けていくこと。チャレンジしていくことなんだ」
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。