限界が見え始めたFC東京の「強烈な個」頼み 3連敗で露呈した“攻め手”の欠如
【識者コラム】鳥栖に敗れて3連敗、FC東京はあまりにも守備の仕方が受け身だ
FC東京がホームでサガン鳥栖に敗れ(1-2)3連敗を喫した。首位川崎フロンターレとの“多摩川クラシコ”で質の差を見せつけられて完敗(2-4)し、さらに昇格組のアビスパ福岡にも敗れた(0-1)後だけに、現状路線の限界が露呈した可能性もある。
FC東京の長谷川健太監督は、鳥栖戦終了後に「入り方は良かった」と振り返っている。実際鳥栖がGKからしっかりと組み立ててくるのを想定し、前から奪いに行く姿勢を見せたので、鳥栖のGK朴一圭は10分も経過しないうちからロングキックに切り替えた。だが、その後も攻守にわたるユニットの連係の精度の差が少しずつ浮き彫りになり、鳥栖に主導権を明け渡していくことになる。
鳥栖はFC東京に「強烈な個」(金明輝監督)があるのを意識して、センターフォワード(CF)のディエゴ・オリヴェイラへのパスコースを制限し、左サイドのアダイウトンに渡ればサイドバック(SB)に任せるのではなく樋口雄太がサポートに入り、数的優位を作って突破を阻んだ。
さらに両チームの明暗を分けたのはボールを奪い合った後の攻防で、組織でのビルドアップに一日の長がある鳥栖はFC東京側のチャレンジを鼻先でかわしダイレクトパスを繋いでいく。結局これを繰り返すうちに、FC東京は撤退守備へと傾いていった。唯一、安部柊斗だけは広範にプレッシャーをかけ続けるが、他の選手たちとの意識は乖離していた。
これはボールを奪われた瞬間を“再奪取の最大のチャンス”と捉える川崎の意識付けとも歴然とした相違があり、あまりに守備の仕方が受け身だ。
例えば、先日のUEFAチャンピオンズリーグ準々決勝第1戦では、レアル・マドリードが後方待機からロングカウンターを活かしてリバプールを下したわけだが、当然レアルは最後尾からのハイテンポな組み立てをしても水際立っている。もちろんレアルと比べるのは酷だとしても、コンパクトゾーンでの攻防で前線への供給の道筋を断たれると打開策を見失ってしまうようでは、常勝は望めない。リードされる展開が多く、相手が間延びし始める後半に追い上げる傾向が強いのも必然と言える。
FC東京の最大の武器は、言うまでもなく前線の個だ。それでも今年は田川亨介が結果を出しつつあるが、基本的に相手に最も脅威を与えているのはディエゴ・オリヴェイラ、レアンドロ、アダイウトンのブラジルトリオで、対戦相手は彼らを抑え込めれば危険は激減する。現実的に11節を終えた時点で複数得点しているのは、ディエゴ・オリヴェイラの5ゴールを筆頭に、田川と森重真人(ともに3ゴール)の3人だけだ。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。