宮本恒靖が読み解く名将のマネジメント グアルディオラだからできること

 

ペップは個人のインタビューには応じない

   201311月に創刊した「サッカーマガジンZONE」の創刊号の特集テーマが「マネジメント」に決まったとき、真っ先に頭に浮かんだのが”ペップ“ことジョゼップ・グアルディオラの名前だった。

   バイエルンを率いるペップは、言うまでもなく世界最高の名将の1人だ。バルセロナでは驚異的な強さを誇るチームを作り上げ、4年間で14ものタイトルをもたらした。

   彼に聞いてみたいことは山ほどある。戦術や技術的な話にも興味はあるが、個人的に最も知りたいのはペップがどのようなマネジメントを行っているのか、だ。スター選手がチームのために献身的にプレーしているし、ビッグクラブにありがちな不協和音も聞こえてこない。一体どうすれば、あのようなチームが出来上がるのか。

   FIFAマスターの受講生の同期にバイエルンのカール・ハインツ・ルンメニゲ代表取締役の息子がいたので早速、監督にインタビューをさせてほしいとメールを送った。だが、返ってきた答えは”NO“。「ペップは個別のインタビューには応じないから」という理由だった。

   彼いわく「ペップは選手にもメディアにもフェアでありたいと思っている。あるメディアには話したのに、あるメディアには話さなかったというような、アンフェアなことをやりたくない。その代わり、記者会見で聞いてくれれば何でも答える」。

   残念だった反面、「らしいな」とも思った。メディアによって差をつけないという対応は、ペップのチームマネジメントに通じるところがあると感じたからだ。そして、インタビューはできなかったものの、幸いなことに彼の考え方に触れる機会を得た。

   ブンデスリーガ第9節のマインツ戦で「バイエルン・マガジン」にペップの独占インタビューが掲載されたのだ。バイエルンの監督就任後、チームの公式メディアとして特別に許可された世界初の独占インタビューだ。その内容は非常に興味深かった。

ペップ流の象徴はラフィーニャの起用法

   最も印象的だったのは、ラフィーニャに関するコメントだ。昨シーズンまでラフィーニャは主役クラスの選手ではなかった。同じポジションにフィリップ・ラームがいたため、右サイドバックの控えという位置づけだった。

   しかし、新シーズンが始まると右サイドバックのレギュラーを獲得。ペップのスタイルを体現するように、果敢な攻撃参加から効果的なプレーを連発している。ペップは「ラフィーニャがいてくれて、とてもうれしい」と強調した上で、次のように続けた。

「ラファは、ここ数週間で最も重要な選手でした。彼が初めて途中交代で出場したときのことです。たった23分でしたが、彼は自分の人生で最も重要な数分間であるかのようにプレーしたのです。その姿を私は忘れられません。彼は与えられた役割をただやり過ごし、プレー時間の少なさにふてくされることもできたでしょうから。しかし、彼は真逆のことをしたのです。そういうことがあって、彼は私からの信頼を勝ち取りました」

   恐らく、ペップはラフィーニャを褒めることによって、チーム全体に明確な”メッセージ“を発信したかったのだろう。ラフィーニャの振る舞いこそが自分の求めているものだと。ペップのスタンスは、このようなコメントからも伝わってくる。

「選手が私の言うことを受け入れてくれるならば、私は彼らの良い友人になれますし、彼らをサポートします。しかし、彼らが私を理解しようとする気がないのなら、スタンドに座る機会が多くなるでしょう」

   その風貌からは想像できないくらい、ペップには冷徹な一面がある。思えば彼はバルセロナの監督就任会見で「ロナウジーニョ、デコ、エトーらを含まないチームを考えている」と、当時の中心選手を切り捨てている。言うことを聞かない選手はいらない。逆に言えば、自分の言うことをちゃんと聞くならばチャンスを与える。ラフィーニャの起用法は、その象徴と言っていい。  

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