元Jリーガー小椋祥平、銀座でサロン経営 コロナ禍の挑戦に“マムシ”の真髄を見た

現在は銀座でサロン経営を行っている元Jリーガーの小椋祥平【写真:藤井雅彦】
現在は銀座でサロン経営を行っている元Jリーガーの小椋祥平【写真:藤井雅彦】

【元プロサッカー選手の転身録】小椋祥平(元水戸、横浜FMほか)後編:2019年の引退後に自ら踏み出したセカンドキャリア

 世界屈指の人気スポーツであるサッカーでプロまでたどり着く人間はほんのひと握り。その弱肉強食の世界で誰もが羨む成功を手にする者もいれば、早々とスパイクを脱ぐ者もいる。サッカーに人生をかけ、懸命に戦い続けた彼らは引退後に何を思うのか。「Football ZONE web」では元プロサッカー選手たちに焦点を当て、その第2の人生を追った。
 
 今回の「転身録」はかつて横浜F・マリノスや水戸ホーリーホックなどに所属した小椋祥平(35歳)。2004年にJ2リーグの水戸に加入すると、ボランチとして相手キーマンを密着マークする姿から“マムシ”の愛称で親しまれた。その活躍が認められ、08年に横浜FMへステップアップ。負傷に苦しみながらも19年にヴァンフォーレ甲府でスパイクを脱ぐまで、全力でプロキャリアを駆け抜けた。そんな“雑草魂”を持つ男は今、サッカー界を離れてビジネスの世界へ飛び込んでいる。後編では引退後、天然氷の職人に出会い、銀座3丁目にトータルリカバリーサロン「Re:room」をオープンして奮闘する姿を追う。(取材・文=藤井雅彦)

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 昨年1月に現役を退いた小椋祥平は、ヴァンフォーレ甲府在籍時代と同じように山梨県甲府市を拠点としている。引退前からセカンドキャリアの方向性が明確に決まっていたわけではない。勝っても負けても次から次へと迫りくる試合へのプレッシャーや緊張感から解放された状況で、「自分は何がしたいのか、何ができるのか」を素直に感じたかった。

 引退を表明した直後、知人を介して天然氷の存在を知る。現在は日本全国に6箇所しかない蔵元が山梨県北杜市にあるという。サッカーに明け暮れる毎日に終わりを告げ、時間は有り余っていた。そして「蔵元八義」を訪ねた。

「山梨県と長野県の県境で、マイナス何十℃の世界です。地下水を凍らせて、ゴミが入らないようにするために職人さんが一睡もせずに管理する。出来上がる直前に雨や雪が降れば、不純物が入ってしまうのでふりだしに戻る。こんなに便利な世の中なのに、職人さんがアナログな工程で完成する美しい天然氷にとにかく感動しました」

 わずかな汚れも許されない厳格さを求められ、とにかく体力と根気が欠かせない。職人技によって生み出された天然氷はかき氷として販売される。昨夏には小椋自身もキッチンカーに乗ってお客さんに提供した。

 冬場しか製造できない天然氷だけで生計を立てるのは難しいが、自身と世の中を見つめ直す良い機会に。プロ生活16年で知らず知らずのうちに疲弊していた心身が洗われるような感覚に陥った。

 そんな折、現役時代にお世話になった方へ挨拶するために東京や横浜へ足を運んだ。コロナ禍以前の話である。

 すると横浜FM在籍時代と比べて街にフィットネスジムなどのトレーニング施設が溢れていることに気づいた。そこから元アスリートしての知見を生かして想像をめぐらせた。

藤井雅彦

ふじい・まさひこ/1983年生まれ、神奈川県出身。日本ジャーナリスト専門学校在学中からボランティア形式でサッカー業界に携わり、卒業後にフリーランスとして活動開始。サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊号から寄稿し、ドイツW杯取材を経て2006年から横浜F・マリノス担当に。12年からはウェブマガジン『ザ・ヨコハマ・エクスプレス』(https://www.targma.jp/yokohama-ex/)の責任編集として密着取材を続けている。著書に『横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史』、構成に『中村俊輔式 サッカー観戦術』『サッカー・J2論/松井大輔』『ゴールへの道は自分自身で切り拓くものだ/山瀬功治』(発行はすべてワニブックス)がある。

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