スーパースター不在でも“レアルはレアル” 名手2人に見たCLを勝ち抜く“伝統”の力
最高の状態でなくても“なんとかなる” CLでこんな勝ち方ができる唯一のチーム
4-5-1でスペースを消して守り、奪ったらキープしてハイプレスをいなし、主にクロースからのロングパスでリバプールのハイラインを急襲する。すでに3年前にそれでやられているのに、この見え見えの作戦にリバプールが屈してしまったのはCBの主力がまるまる欠けてしまっているせいだが、そもそもパスの出どころであるクロースへのプレスすらなかった。
リバプールは最高の状態ではなかった。レアルも最高ではなかったが、モドリッチとクロースがいれば、相手が最高でなければなんとかなるのだ。この大会の最多優勝と、決勝での最高勝率を誇るレアルが厄介なのは、こういうところだと思う。CLは最高の状態でなければ優勝できないはずなのだが、レアルはそれほどでなくても優勝している。相手の力を丁寧に削ぎ落し、ベストのパフォーマンスを封じれば、自然と勝利が転がり込む。CLでこんな勝ち方ができる、おそらく唯一のチームだろう。
モドリッチとクロースを支えるのはカゼミーロだけでなく、マルコ・アセンシオとヴィニシウス・ジュニオールは自分の担当レーンを忠実に守り、モドリッチやクロースよりも自陣に近い位置で守備をしていた。運動量が落ちてきたモドリッチ&クロースにとっては、献身的なウイングは有難かったに違いない。そしてカリム・ベンゼマは相変わらず効いている。
全盛期のロナウドのようなスーパースターはいなくても、十分にスターな選手たちが勝利に向かって丁寧に、時に泥臭くプレーする。スーパースターでありながら「労働者」とも呼ばれたアルフレッド・ディ・ステファノの時代から受け継がれる伝統はまだ生きている。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。