伝統の勝負強さはどこへ… “優勝候補”鹿島、2年連続スタートダッシュ失敗の誤算
ポゼッション型はクラブや指揮官に確固たる信念がないと浸透させるのは難しい
鹿島はディフェンスラインの組み換えが大きな誤算となった。CBは過去5戦スタメンを続けてきた犬飼智也が不在で、ここまで唯一ポゼッションで下回り敗戦したアビスパ福岡戦と同じく関川郁万と町田浩樹がコンビを組み、右SBも常本佳吾が初スタメン。攻守に判断や技術的なミスが重なり、連動した攻撃を組み立てるまでに至らず、孤軍奮闘のエヴェラウドの苛立ちを誘因することになった。おそらく戦術の機能ぶりからしても、対戦相手のスカウティング段階から浦和の圧勝だった。
川崎フロンターレ、横浜F・マリノス、北海道コンサドーレ札幌、戦力を考えれば大健闘を続ける大分トリニータなど、ポゼッション型はクラブ、あるいは指揮官に確固たる信念がないと浸透させるのは難しい。戦力との相性もあるし、精度が高まらなければ逆に勝負弱さを招くリスクもある。実際ジュビロ磐田と覇権を争っていた頃の鹿島は、「何本パスを繋がれても抑えるべきところを抑えれば問題ない」(秋田豊氏)と、敢えて相手にボールを持たせても勝ち切るしたたかさがあった。
しかし今季は、ポゼッション62%を占めた名古屋グランパス戦も0-1で敗れている。今年就任したばかりの浦和のリカルド・ロドリゲス監督と比べても、ザーゴ監督のチーム作りが遅れていることは明白だ。昨年クラブは予想以上の我慢強さでザーゴ監督を信頼したが、そろそろなんらかの抜本的なテコ入れを検討するべき時期が近づいているのかもしれない。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。