東京五輪「金メダル水準」はアルゼンチン以下 日本が快挙へ近づくために必要なこと
【識者コラム】南米1位は本番を見据えた格好の指標、列強国がベスト布陣を組むのは至難の業
U-24日本代表のアルゼンチンとの連戦は、各競技の五輪最終選考会を連想させるほど濃密だった。分かりやすい例で言えば参加標準記録が設定された陸上や水泳では、最終選考会で時には本番以上の好記録が続出するケースがある。おそらく今回の2戦目では、ピッチに立った選手たちがそれに似たモチベーションで臨んだに違いない。
何より「金メダルを目指す」と言い続けた日本代表にとって、アルゼンチンは格好の指標だった。もし東京五輪が開催されても、欧州からベストメンバーを揃えたチームの参加は見込めない。U-24と言えば半分近くはフル代表を兼ねるはずで、直前にEURO(欧州選手権)が開催されるし、東京五輪の頃には新シーズンが開幕する。そうなると南米1位は現実的に金メダル候補の筆頭格で、その南米にしても直前に大陸選手権が行われ、さらにシーズンインした後に欧州のクラブが招集に応じる義務のない五輪に重要な選手たちを送り出すとは考え難い。
実際にアルゼンチンも、本番で同じレベルのメンバーを集めるのは至難の業だろう。例えば来日初戦で決勝ゴールを挙げたFWアドルフォ・ガイチはCSKAモスクワと2025年夏まで契約しており、年明けからセリエAのベネベントにレンタル移籍。10連覇を目指すユベントスとの試合で決勝点を挙げるなど評価を高めている。来シーズンはどこのクラブでプレーするのか未知数で、いずれにしてもせっかく高額で借り受けたクラブが大事なシーズン開幕時に快く代表に送り出す可能性は限りなく低い。そう考えれば、東京五輪の金メダル水準は、今回戦ったアルゼンチンと同等以下と見るのが妥当だ。
だが、そんな背景と当事者の想いはまったく別で、どんなレベルの大会だったとしても「五輪の金メダル」という実績は、末永く快挙として語り継がれる。思えば日本でサッカーが少しずつ認知され始めたのも57年前の東京五輪で優勝候補のアルゼンチンを下し、ベスト8に進出したのが発端だった。その時の五輪でいまだに破られない歴代最高視聴率66.8%を記録したのがソ連(当時)を3-0で下した女子バレーの決勝だったわけだが、男子サッカーが決勝に勝ち上がっていけば、それを上回る注目を集めるかもしれない。
五輪の登録枠は、ワールドカップより5名も少ない18名。選考レースも佳境を迎えている。当然、横内昭展監督は、初戦で出場停止の田中碧を欠くことを踏まえても、現時点で想定されるベストメンバーを送り出したはずで、だからこそ崖っぷちを意識せざるを得ない2戦目のスタメン組は、キックオフ直後からペース配分を度外視したフルパワーのプレッシングを敢行し主導権を握った。1点をリードして迎えた後半、アルゼンチンは必死に攻勢を強めたわけだが、それを凌ぎながら突き放すと、南米1位でも焦燥と苛立ちを露わにして崩れていく様子を見て取れたのは大きな収穫だったかもしれない。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。