覇気なき韓国に圧勝も…心許ない日本の現状 「普通のサッカー」に輝く未来はあるか
【識者コラム】よそ行きの服を着ているような韓国、日本戦ではすべての面で負けていた
流行した韓流ドラマ「愛の不時着」で、こんなシーンがあった。
店のテレビでサッカーの日韓戦が中継されていて、それを見ている店中の人々が熱狂的に盛り上がっている。北から来た人も、南の人も。ことこれに関しては南北が一体化するというシーンだった。
実際のところがどうかは知らないが、ドラマだからといってあまりにリアリティーのない演出はしないはずで、「あー、これはあるよねー」と納得できる国民的感情として挿入されていた場面だと思う。それだけサッカーで日本と戦うことには特別な意味があるわけだ。
その日本に0-3で負けたのは、親善試合とはいえ韓国にとってショックな結果だったに違いない。
KFA(大韓サッカー協会)の会長はすぐに謝罪コメントを出した。ただ、「パウロ・ベント監督を責めるのはフェアではない」として指揮官を庇った。2018年8月から指揮を執っているポルトガル人のベント監督は、スポルティングで名を挙げた。ポルトガル代表監督も務め、その後は短期間だがクルゼイロ(ブラジル)、オリンピアコス(ギリシャ)、重慶力帆(中国)というキャリアである。
ベント監督に本当に非がないのかは分からない。だが、日本戦の韓国はすべての面で負けていた。技術、戦術、球際……こんなに覇気のない韓国も珍しい。代表、クラブを問わず、日本のチームと対戦する時の韓国側指導者がよく口にする「精神武装」が今回は感じられなかった。
韓国は自陣からボールをつなごうとしていた。“偽CF”の策もあった。しかし、ビルドアップは日本のプレッシングの餌食となり、CFはただ中盤に下りただけだった。ベント監督が韓国を現代的なチームに仕上げようという意思は見えるのだが、どことなくよそ行きの服を着ているように感じる。ベスト8で敗退した2019年のアジアカップでもそれは同じだった。スーパースターのソン・フンミンを擁しながら、カタールに敗れている。
韓国の事情はよく知らないけれども、代表チームを単体でモダナイズする難しさは想像がつく。そんな時間は与えられていないからだ。カタールがそれに成功した背景には育成からの改革があった。そして我々も隣国を心配している場合ではないのだろう。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。