ドイツ生まれ、イングランド育ち…2国間で揺れた逸材 “才能”見抜いた独クラブとの絆
【ドイツ発コラム】バイエルンの18歳MFムシアラがドイツ代表を選択し注目
ドイツ代表初招集の18歳MFジャマル・ムシアラが注目されている。
昨季17歳でトップチームデビューを果たすと、今季は継続的に起用されている。ブンデスリーガで19試合、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)では5試合に出場し、合計4ゴールをマーク。スタメン出場を果たしたCL決勝トーナメント1回戦のラツィオとの第1戦ではチーム2得点目となるゴールを綺麗に決め、CLにおけるドイツチーム所属選手最年少記録を更新した。ハンス=ディーター・フリック監督からの評価も高く、2月下旬に18歳となった後、バイエルンと2026年までのプロ契約を交わしている。
またドイツとイングランド、そしてナイジェリアでプレーする可能性があったムシアラは、最終的にドイツ代表でプレーすることを決断。そして3月の代表戦で初招集となったわけだ(25日のアイスランド戦で途中出場し代表デビュー)。
決断の要因となる要素はいろいろあっただろうし、最後の決め手が何だったかは本人しか分からない。ただ現在、バイエルン・ミュンヘンでドイツ代表キャプテンのマヌエル・ノイアーをはじめ、次期キャプテン候補ヨシュア・キミッヒ、そしてレオン・ゴレツカ、ニクラス・ズーレ、レロイ・サネ、セルジュ・ニャブリといった主軸選手と一緒に過ごす時間がもたらした刺激は少なくなかったのではないかと思われる。代表ではチェルシーのカイ・ハフェルツ、レバークーゼンのフロリアン・ヴィルツとともに将来のドイツ代表中盤における中心選手として期待されている逸材だ。
また所属クラブのバイエルンでも、トーマス・ミュラーの後継者としても期待されている。バイエルンで育ち、バイエルンでプロデビューを果たし、バイエルンとともに数々のタイトルを勝ち取ってきたミュラーはまさにクラブの生き字引。代わりになる選手など、そうは現れないと思われていただけに、ファンにとっても、クラブにとってもなんとか大事に育てたいという思いがものすごく大きい。
とはいえ、才能だけで世界トップクラスのクラブでレギュラーとなることはできない。常時プレーするためにはまだまだ向上すべき点はたくさんあるし、ムシアラもそのことはよく分かっている。シーズン当初は相手選手のハードな当たりをこらえることができずにいたが、フィジカルコンディションもだいぶ向上。このあたりはキミッヒやゴレツカとともに、筋力トレーニングを定期的に行っていることがポジティブに作用しているようだ。シーズン開幕時と比べて7kg増量し、身長も2cmアップ。
またゴールへつながる道やスペースをかぎ分ける感覚、そしてゴールへの直接的なアクションを改善していくために、アシスタントコーチのヘルマン・ゲルランドやミロスラフ・クローゼとともに居残り練習を日課とし、精力的に取り組んでいるのだ。出場機会がガクっと減っていた時期もあったが、ここ最近はまた順調にピッチに立つ時間が増えているのは、そうした取り組みの賜物だろう。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。