18歳の大久保を見た外国人監督が成功を確信 日本人FWで稀有なゴールへの“集中力”
レアルの英雄FWブトラゲーニョは「9本外し続けて10本目も狙うストライカー」
また日本特有の謙虚さが、裏目に出てしまうこともある。
「清水エスパルスで指導した伊東輝悦(アスルクラロ沼津)は、体も強く技術も高くパスも正確、物凄いシュートも持っていました。当時世界最高峰だったセリエAでも十分にやれたはずです。ところが試合になると、シュートではなく横パスを選択してしまう。せっかく持っている長所を出し切れないところがありました」
逆にゼムノビッチ氏が師と仰ぐミリヤン・ミリヤニッチ(ユーゴスラビア代表やレアル・マドリードなどの監督を歴任し、同国協会会長も務めた=故人)は、かつてレアルのエースストライカーとして君臨したエミリオ・ブトラゲーニョについて語っていたという。
「彼は一番シュートを外しているけど、一番決めてもいる。9回外しても10回目のシュートも同じ気持ちで臨める。それだけの集中力を持っているんだ」
日本では9本外し続けて10本目も狙うストライカーは皆無に近い。ただしミリヤニッチは、それを自信やエゴの問題ではなく、集中力だと捉えているところが興味深い。
再びゼムノビッチ氏が続けた。
「日本でも同じ姿勢を見せている選手がいた。18歳の大久保嘉人でした。どんな時間帯でも必ず自分でゴールを奪いに行く。良い選手になると確信しました」
ゼムノビッチ氏は、清水時代にユースチームを率いてアルゼンチンでの国際大会に参加してみて「つくづく日本人になった」と感じたという。
「ボカやリーベル・プレートを筆頭に有名な32チームが集結した大会でした。私は2時間前にグラウンドに到着。ところが30分経っても誰も来なくてスタジアムの中へも入れない。ようやく試合開始の30分くらい前になって管理人が来て開けてくれた。結局試合は45分遅れで始まりましたよ」
管理人は「グラウンドは1日中空いている。時間通りじゃなくても大丈夫だよ」と笑っていたそうである。
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(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。