18歳の大久保を見た外国人監督が成功を確信 日本人FWで稀有なゴールへの“集中力”
【ゼムノビッチ監督が語る育成指導論|第3回】日本人選手が持つ長所を活かすために必要な環境整備
小学生からプロのトップチームまで豊富な指導経験を持つズドラブコ・ゼムノビッチ氏は、現在兵庫県の私立相生学院高校(兵庫県=通信制)サッカー部の監督を務めている。
同校は通信制の利点を活かし、午前の早い時間に勉強を済ませると、11時から2時間程度のトレーニングを済ませ、午後は教育的なセミナーや戦術ミーティングを行うなど、選手として、社会人として成長していくための有意義なプログラムを用意している。
「ここにはプロクラブに匹敵する環境がある。今でも何人かは面白い選手がいるし、質の高い選手が来てくれればプロや大学でも活躍できるようになれるだけの条件は揃っています」
来日以来すべてのカテゴリーの現場を見てきたゼムノビッチ氏は、日本の状況を熟知し「いろんな長所がある」と指摘する。
「すべての学校にグラウンドがある。それにアジリティー(俊敏性)の高い選手たちが多い。例えば南野拓実(サウサンプトン)を見てください。細かいドリブルやワンツーを使って突破をしていきますが、あれは190cmのDFには対応できません。パルチザンでは浅野拓磨も素晴らしいプレーを続けています。イスラエル代表主将のビブラス・ナトホとのコンビで観客を沸かせています。日本人には真面目で勤勉、さらに諦めない長所があるんです」
しかしそういう長所を活かすためにも、環境整備が必要だと感じている。
「全国高校選手権がテレビ中継されて、あれだけ注目を集める。しかしこの大会は3種類用意するべきです。各学年の大会を行い、もちろん18歳以下のカテゴリーには年下の選手たちも出場できる。旧ユーゴでは8~18歳まで1歳刻みで、そういうやり方をしています。またどのタイミングでも、選手たちは自分に適したクラブに移籍することができます」
日本で大きな壁になっているのが、6-3-3の学校制度とスポーツの密接な関係だ。
「日本では、小中高大と3回学校が変わり、そのたびに所属チームも変化していきます。それぞれのカテゴリーで最上級生になるとピークが来るわけですが、逆に新入生になるたびに落ちてしまう。これは本当にもったいない」
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。