ポルトが示した「2ライン」の解答 「ポジショナルプレー」にもはや優位性はない
欧州でデフォルト化した「ポジショナルプレー」、CLではすでに普通のサッカー
ハンス・オフトが日本代表の監督に就任した時、いくつかのキーワードを示していた。「トライアングル」「アイコンタクト」など、英語で分かりやすい言葉だった。そのなかの一つに「スリーライン」がある。
FW、MF、DFの3つのラインだ。3つのラインがコンパクトに保たれる必要があり、MFがFWと同化する、あるいはMFがDFに吸い込まれて2ラインになるのはNGと言っていたものだ。原則は現在も同じだと思う。
だが、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16第2戦でのポルトは実質「2ライン」だった。また、それはヨーロッパでデフォルト化している「ポジショナルプレー」に対する解答でもある。
ホームの第1戦でポルトは、2-1でユベントスに勝っていた。第2戦もPKで先制して合計3-1とリード。後半5分に1点を返されるが合計では3-2、ここまでは十分逃げ切れそうな展開だったが、後半9分に退場者を出して雲行きが怪しくなり、最終的に第2戦は延長戦の末に2-3。2戦合計4-4、アウェーゴールによる勝ち抜けだった。
ユベントスも意地を見せたとはいえ、少なくともポルトが10人になるまでの経過を見る限り、相手が一枚上だったと思う。
ユベントスはセリエAのチャンピオン、イタリアでは先進的なチームの一つだろう。ただ、それは「イタリアでは」の話。GKも含めて後方から丁寧にパスをつなぎ、いわゆるポジショナルプレーを実行しているが、イングランド、スペイン、ドイツなどではもうそれは珍しいことではない。CLのレベルなら、すでに普通のサッカーにすぎない。例えば、ポジショナルプレーの権威であるジョゼップ・グアルディオラ監督が率いるマンチェスター・シティと比べるなら、ユベントスは初心者のように見える。
もちろん、それ自体がチームの強弱に直結するわけではない。ユベントスにはクリスティアーノ・ロナウドというゴールゲッターがいて、彼に高精度のクロスボールを供給するフアン・クアドラードやフェデリコ・キエーザもいる。しかし、それだけだった。ポルトがそうさせていた。
ポルトの守備は4-4-2が基調だが、この試合ではサイドハーフが“サイドバック化”している。さらに2トップも引いて、極端に言えば6-4の「2ライン」になっていた。
正確には常に6-4ではない。DFのラインは4バック+ボールサイドのサイドハーフなので基本は5人構成。ボールと反対サイドのサイドハーフはMFのラインに入っている。ボールサイドのサイドハーフが引くのに連動してFWが戻る形なので、こちらも2トップが同時に引いてくるわけではない。ただ、サイドから攻め切れないユベントスはサイドチェンジを繰り返すので、気構えとしては6-4でないと守れない。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。