37歳長谷部誠が輝き続ける理由 ドイツでの“いじり”に見る卓越した「バランス感覚」
【ドイツ発コラム】フランクフルトとの契約を1年延長、身体的な衰えを知性でカバー
フランクフルトとの契約を1年延長した長谷部誠は、本当に37歳なのだろうか。
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ピッチ上での躍動ぶりを見たらとても37歳のそれとは思えない。身体的によく言われるのが、年を重ねてくると急なスピードの変化に体がついていかなくなるところ。スポーツ生理学の面から考えても、基礎持久力自体は年齢を重ねても日常的に定期的な運動をしていたら、そこまで落ちていったりはしない。だから高齢者でも長距離のジョギングをすることはできる。
一方で瞬発系の力は違う。速いスピードで走っていて急に止まる、方向を変える、そのあとにまたすぐ動き出すという連続的なスピードとテンポと方向の変化には、体が追いつかなくなってしまうものだ。だから引退を決断する選手は、少なからずこの壁にぶち当たる。
そのあたりで長谷部は今季コンスタントにハイスピードでのプレーを見せている。ダッシュでは時速33㎞を記録することもあるし、そのスピードはチーム内でトップ5に入ることも普通にある。契約延長を受けての記者会見でドイツ人記者にその点を指摘されると、長谷部は笑ってドイツ語で答えていた。
「たぶん、機械が壊れていたんじゃないかな(笑)。時速33㎞も出せるかな。ボランチのポジションはリベロの時より多く走らないといけなくて、毎試合11㎞とか、それどころか12㎞近く走ることもありますけど、フィットネスは良好で、今でも多く走れますね。特別なことは何もなくて、自分の習慣は変えていないです。健康な日本食をとって、毎日お風呂に入って」
おそらく年齢を重ねていくなかでより強靭で、よりしなやかな力を手にすることは現実的な話ではない。それよりもサッカーという競技の中で必要とされるプレーをするための体の使い方をマスターし、それを維持し、それを最適化していくことでハイレベルなプレーを継続的にすることも可能だということを、長谷部はものの見事に体現している。
例えば、「100」から「0」へ急ブレーキをかけようとしても体は追いつかない。止まるべきところで止まるために、方向転換すべきところでスムーズに次の動きに移行できるように、スピードを緩めていけるという能力レベルが長谷部は非常に優れている。もちろん、そのためには自分が向かうべき場所とコース、その次に、その次の次に起こるだろう展開を予測しながらプレーできる秀逸なインテリジェンスがなければならない点は言うまでもない。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。