FC東京は川崎の“対抗馬”になり得るか 生命線のブラジル勢、開幕3戦は“調整遅れ”露呈
【識者コラム】開幕3戦を1勝1分1敗、4連勝の川崎とは対照的に躓く
連覇を目指す川崎フロンターレがJ1リーグ開幕から4連勝と相変わらずの強さを見せつけているのに対し、明らかにスタートダッシュで躓いたのが、昨年ルヴァンカップを制し対抗馬と見られるFC東京だった。
特に惨状を露呈したのが開幕戦。浦和レッズに完全にゲームを支配され、後半41分にセットプレーから唯一の枠内シュートがゴールを割り、辛うじて1-1で引き分けた。第2節セレッソ大阪戦(3-2)も二度先行を許す厳しい展開になり、相手GKキム・ジンヒョンのミスを田川亨介が貪欲に突き、さらにセットプレーからの2ゴールで逆転に成功した。開幕のどん底状態から1週間でなんとか建て直した長谷川健太監督の手腕は見事とも言えるが、第3節のヴィッセル神戸戦(2-3)では2点差を一度は跳ね返すも再度突き放されて黒星を喫した。
もともとFC東京は、川崎、横浜F・マリノスと過去4年間続いたリーグ王者や一昨年度の天皇杯を制した神戸とは、対照的なスタイルを志向するチームだ。味の素スタジアムへ行けば、若いGK波多野豪の「中を締めろ」の大声が響き渡るように、中央を固めた守備を土台にブラジルトリオのドリブルを活かすカウンターが大きな得点源となっている。昨年のデータを見ても、1試合平均パス数375.2本と、クロス数10.4本が最下位。逆にスプリント回数186回は最多で、走行距離は17位。ちなみに走行距離が最も少ないのが川崎だった。
ただし川崎は、敵陣で少しずつポジションを修正しながらパスで揺さぶり続け、相手を疲弊させ集中力を削ぎゴールを量産してきたのに対し、FC東京はショートパスや組織的なサイドからの崩しが極端に少ない。そういう意味では、生命線となる「ブラジル勢の調整の遅れ」(長谷川監督)は致命傷となった。またフォーメーションや人選も依然として試行錯誤が続き、アンカーにはアルトゥール・シルバや東慶悟を起用してきたが、結局2節の後半からはセンターバックでスタートした森重真人を昨年同様に同ポジションに移し好転させている。ただし森重のアンカー起用についても、指揮官は「状況を見て」と語っており、確信に至っている様子ではない。
いずれにしても個々のコンディションに大きく左右されるフィジカルな戦いを志向しており、その点では3節神戸戦で光明も見えた。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。