「浦和の看板」背負いたくない 見知らぬ土地で再出発、元J戦士が描く第2の人生とは

“お悩み相談室”は重要な業務の一つ、「信頼関係で結ばれたい」

 利益ばかりを追求する経営者、いい患者を獲得することだけに執着する同業者も多いそうだが、全く考え方が噛み合わないという。

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 今年5月で開業13年目を迎えるが、見知らぬ土地で成功しているのは、患者ファーストの姿勢があればこそ。患者は体の痛みと心の不安があり、整形外科に不満を持つ人の来院が特に多い。松田は「診察しても一向に治らないばかりか、医師が話を聞いてくれない、治療の説明が十分でないと訴える患者さんが助けを求めに来ます」との事例を挙げる。

 それゆえ、患者に寄り添う形で接し、怪我の状態や治療法などを分かりやすく伝えることが、この仕事に携わる必須条件と心得る。

 3人のスタッフは松田と考え方を共有する。元々患者だった基稜梧さんは「院長の患者さんを思う気持ちはとても強く、言葉に重みがあります。自分も院長のような、患者さんの気持ちになってケアできる施術師になりたい」と敬慕する。

 患者の悩みを真剣に聞こうとしない医師とは対極で、“お悩み相談室”は松田の大事な業務の一つだ。苦難に直面した自らの現役時代を引き合いに出し、アスリートの声をとことん聞いては助言を送っている。

「足は遅いし背は低く、フィジカルも強くない自分がどうやってアピールするか、どうやって生きていこうか、毎年のように考えていた」

 サッカーへの取り組みについての相談には、自らのこんな経験と知識をレクチャーし、十分な言葉で納得してもらっている。

 院名の『Fit』は「治療院と地域、僕らと患者さんがフィットし、信頼関係で結ばれたいとの思いから命名しました」。名は体を表したようだ。(文中敬称略)

河野 正

1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。

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