ペップ戦術の「集大成」 マンC、快進撃を導く“数的優位”作りのメカニズム
【識者コラム】公式戦21連勝のマンC、グアルディオラ監督がバルサ時代から貫く戦術の“決定版”を披露
マンチェスター・シティが公式戦21連勝と絶好調だ。前倒しで行われた第29節のウォルバーハンプトン(ウルブス)戦も終盤に畳みかけて4-1と勝利した。
昨季はリバプールにリーグ優勝をさらわれ、少し精彩を欠いたかに見えたが、今季は完全に持ち直している。それどころかプレミアリーグを席巻してきたジョゼップ・グアルディオラ監督のシティにおける決定版を出してきた感さえある。
ペップの率いてきたバルセロナ、バイエルン・ミュンヘン、シティには一貫性がある。どれもペップの刻印が押してあるようだが、今回はコーチのフアン・マヌエル・リージョの影響もあるかもしれない。リージョはヴィッセル神戸の監督も務めたので、日本にも馴染みのある人物だろう。ペップとリージョは元々考え方が似ているので、どちらのアイデアかは判別しにくいが、外枠をしっかり作るのはリージョがコーチだったセビージャと似ている。
5-4-1で守るウルブスに対して、シティは中央のDF3人の間にラヒーム・スターリングとガブリエル・ジェズスがポジションをとる。これで相手DF3枚は動けなくなる。さらに右はリヤド・マフレズ、左はジョアン・カンセロが幅をとる。両サイドにこの2人が張っているので、ウルブスのウイングバックも動けない。これでウルブスの5バックを釘付けにして固定できる。(図参照)
ウルブスの5バックの前方は4-1の5人、対するシティはDF3人(カイル・ウォーカー、ルベン・ディアス、アイメリク・ラポルテ)とMF3人(ベルナルド・シウバ、ロドリ、ケビン・デ・ブライネ)の計6人。さらにスターリングかジェズスが適宜に少しポジションを下げる。すでにウルブスの5バックは固定されているので、FW1人が下がることでウルブスの5バックの手前は7対5でシティの数的優位2人が生じる。この優位を生かしてフリーマンを作り、多彩なアプローチでディフェンスラインを攻略していく。
相手のディフェンスラインを固定させて、その手前の数的優位を2人にするのはペップの十八番だ。バルセロナ時代からこのやり方は変わらない。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。