“武闘派DF”へ進化を遂げた屈辱の1年 浦和で躍動する槙野がドイツで得た「大きな財産」とは
新指揮官から浴びせられた屈辱的な言葉
「おい、日本人」
槙野は、名前ではなく、そう呼ばれたという。差別的で、侮辱的な発言だと感じた槙野は練習後、監督室のドアをノックした。そこで「俺は日本人という名前じゃない。マキノという名前だ」と主張した。監督との関係が悪化すれば、容易にチャンスを与えられるはずもない。実際、チームはスタートから低調で守備陣は崩壊寸前だったが、槙野には全く声が掛からなかった。しかもサイドバックが負傷した時、槙野ではなく、ボランチの選手に声が掛かったこともあった。
「チームの成績は出ていないし、試合に出ているDF陣はやらかして失点を重ねていた。じゃあ次は俺の出番かなと思ってもメンバーが変わらない。試合に出られないので、監督室をノックして自分の何がダメなのか、試合に出ている選手と比較して何が足りないのか、何をしたら試合に出られるのかを聞きに行きました。それは海外では普通のことですし、聞きに行って嫌われてもすでに試合に出られていないので同じじゃないですか。この状況を打開し、何か変化を起こすために行動に移したんです」
槙野の問い掛けに監督は、意外にも冷静に答えてくれたという。
「おまえの持ち味は攻撃だが、うちは守備を重視している。だから、守備をしっかりやってほしいし、1対1の対人能力を上げてほしい。おまえは個人の結果に重きを置いているが、個人が輝く前にチームとしてどう勝つのかを考えてほしい」
槙野は、監督に言われてハッとした。しかし、自分が置かれた状況を考えると、額面通りには受け取ることはできなかった。
「その頃は、自分が良ければいいというか、ポジションを確保するためには結果を出さないといけないということばかり考えていた。だから、監督の言うことは理解できました。でも、気持ちは複雑でしたね。チームあっての自分だということは分かっているんですが、与えられたチャンスや時間がめちゃくちゃ少ないんで、どうしても自分がってなってしまう。それとどう折り合いを付けてプレーするのか、すごく難しかったです」