元Jリーグ外国人監督が高校サッカー初指導 「物凄くもったいない」部活の伝統とは?
【ゼムノビッチ監督が語る育成指導論|第1回】淡路島を活動拠点とする相生学院高校サッカー部の監督に就任
かつて清水エスパルスを天皇杯制覇などに導いたズドラブコ・ゼムノビッチ氏が、兵庫県にある相生学院高校サッカー部(通信制)の監督に就任した。Jリーグは創設から29年目を迎えたが、プロのトップチームを指揮した経験者が高体連の監督に就くのは初めてである。
淡路島を活動拠点とする同校サッカー部は、寮の近くにある天然芝、人工芝、土とすべてのタイプのピッチが利用可能で、時には砂浜でのトレーニングも実践するなど、特に育成には理想の環境を整えている。1995年に来日して以来、小学生からプロまですべての年代別カテゴリーで豊富な指導歴を持つゼムノビッチ氏にとっても、心を動かされる新しいプロジェクトだった。
「Jクラブからも2つくらいオファーがあり、千葉県に戻って少し考えているところだった。実際淡路島へ来て2日間くらい施設を見て回ると、プロも顔負けの凄い環境が整っていた。寮と目と鼻の先にトレーニングの場があるので、いつでもボールを蹴れる。面白い試みだと受けることにしました」
高校の部活は、いくつかの大きな問題点を抱えている。多くの強豪校は3ケタの部員数を抱え、大半がトップチームの公式戦のベンチにも入れずに卒業していく。またそういう厳しい状況を実感し、指導者や環境に馴染めなくても途中で移籍することができない。中学から高校へと3年間単位で区切られ、それぞれの在学中に一つの総決算しかない日本独特のシステムは、海外事情と比べても極端に非効率で大きな障壁になっていた。
こうした日本独特の事情を熟知するゼムノビッチ氏は指摘する。
「だから日本では小学生が一番良いサッカーをしているんです。小学生時代は、ほとんどの選手が同じチームで過ごすし、学年ごとのチームがあって常に試合をしているからです。でも中学に入ってからの2年間と、高校に入学後の2年間は真剣な公式戦の場が激減する。欧州ではどんなチームでも年間30試合をこなしているので、そう考えると日本の選手たちは中学と高校の計4年間で計120試合の公式戦が不足してくる。これは物凄くもったいないこと。日本人選手の成長速度が遅い大きな要因になっていると思います」
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。