「母のために決めた」ゴール 独2部の20歳日本人MF、夢を叶えた“生え抜きの星”
アペルカンプが奮闘する姿は育成アカデミーの“後輩”にとって希望の光
アペルカンプにとって、トップチームの舞台でプレーする経験は非常に大きい。と同時に、クラブにとってもアペルカンプがトップチームでプレーしているという事実はとても意味があるものなのだ。
育成は大事というディスカッションはよくされるが、あくまでも育成アカデミーにおいての話で終わっているクラブだって少なくはない。ブンデスリーガクラブの育成ダイレクターと話をしていると、異口同音にプレーモデルやクラブコンセプトの大切さを力説するが、「ではトップチームでは?」と話を振ると「いや、トップチームはまた違うから」と言葉を濁される例は結構あるのだ。
それも分かる。プロの世界における勝ち点の持つ重みというのもある。それでも、そこには確かな梯子がかかっていると思えるかどうかは大きな違いとなる。
「プロチームには4、5人ユースから上がった選手がいますけど、今出ているのは僕1人。僕がユースから上がってプロとして試合に出ることで、小さい世代への刺激になってほしいと思っています。ユース出身でプロ選手として試合に出られる可能性、希望を見せていけたら」
誰もがプロ選手になれるわけではない。育成アカデミーでU-19まで残っても、U-23へ昇格できても、そこから先にプロの世界がない選手がほとんどなのだ。育成アカデミーで身に着けたプレーがトップチームで確かな戦力となっている。その事実は、将来を夢見る育成選手への大きな希望となる。
アペルカンプはユースからの生え抜きという自覚を持ち、誇りを抱いてプロの舞台でプレーしている。その大きな背中がピッチで奮闘する姿は、後に続こうとしている育成選手の目に何よりも頼もしく映っているはずだ。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。