三笘&田中が放つ「ハイレベル」な輝き “王者”川崎、J1連覇へ強すぎるがゆえの悩み
【識者コラム】富士ゼロックス杯でG大阪に3-2勝利、三笘&田中は出色のパフォーマンス
シーズンの開幕を告げる富士ゼロックス・スーパーカップを制した川崎フロンターレの鬼木達監督は、「新しい選手を含めて全員が力を合わせて勝てた」ことを収穫に挙げた。
名古屋グランパスから補強したジョアン・シミッチのスタメン起用は当然予想通りで、最大の注目ポイントでもあったが、他にも勝負どころの後半15分過ぎに大卒ルーキーの橘田健人と、新加入の塚川孝輝を送り込み、終盤に交代出場した遠野大弥は小林悠の決勝ゴールをアシストした。
シミッチの実力は折り紙付きで、名古屋時代も風間八宏監督時代は中核として重用されてきたので、川崎のスタイルにフィットすることは十分に想定できた。ただし昨年はシーズン途中からアンカーに収まった守田英正が攻守両面で著しい成長を遂げたので、その穴埋めに時間がかかる懸念もあったが、「今出せることは出せた」と自身が話したように、キックの種類や質、攻守の展開の読み、さらには高さも合わせれば、早くもプラスアルファをもたらすパフォーマンスを見せた。
だが川崎は「昨年以上の記録を追求する」(鬼木監督)一方で、進化しながら強さを見せ続けているからこその悩みも内包している。
昨年川崎で急成長を遂げたのは守田だけではない。まず圧倒的な存在感でチームを勝利に導き続けた三笘薫は、この日も2ゴールを記録したように不可欠の存在となり、対戦相手も最優先に対策を練っている。また今年はシーズン開幕から出色のパフォーマンスを見せたのが田中碧だった。昨年はアンカーでスタートし、途中から守田にポジションを譲り1列前にポジションを移したわけだが、この日も攻撃の重要な起点として牽引。先制シーンではバイタルエリアで起点となると、追い越していく三笘に絶妙のタイミングでアシスト。終了直前に最終ラインまで降りてから繰り出した遠野への中央を切り裂く鋭い縦パスは、国内では他に類を見ないハイレベルなものだった。
現在国内組を加えた日本代表の活動は停止中だが、三笘も田中も十分に選出されるだけの実力は示している。またJ1のチャンピオンチームの中核としての活躍を見れば、海外からのオファーもないほうが不思議だ。実は今年、個人的に川崎連覇の予想を避けている理由もそこにある。三笘も田中も希望に近い条件で海外移籍が可能な年齢的なリミットが近づいている。コロナ禍で諸事情が絡むが、指揮官を筆頭に夏移籍の予感は共有しているに違いない。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。