リバプールの“連覇消滅”を感じた瞬間 「史上最強の肉体を持つ男」の悲劇が招いた崩壊
逆転負けを喫したレスター戦のCBコンビは今季17通り目
奇しくも南野がプレミアリーグ初ゴールを決めた試合にもなったが、今思えば、12月19日に行われたクリスタル・パレス戦で創立128年のリバプールがアウェーの史上最多ゴール記録を更新する7-0大勝を収めたのは、ロウソクが燃え尽きる前の一瞬の輝きだった。
その後のリーグ戦の戦績は悲惨の一途を辿る。まずは降格争いに巻き込まれ、残留請負人のサム・アラダイス監督を招聘したばかりのウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンにホームで1-1と引き分け、続くアウェーでのニューカッスル戦を0-0のスコアレスドローで2020年を終えた。
しかし、これは泥沼のほんの序の口だった。新年初戦のサウサンプトンとのアウェー戦でまたもゴールが奪えず、しかも元リバプールのダニー・イングスに1点を奪われ0-1敗戦を喫すると、ホームに帰ってのユナイテッド戦も0-0で無得点。そして次戦のバーンリー戦でもまたゴールが奪えず、不用意なPKを与えて0-1敗戦。4試合連続の無得点を続けると、68試合続いていたホーム無敗記録がついに途切れた。
この後トッテナム、ウェストハムとロンドンで2試合続いたアウェー2連戦をともに3-1で勝利して立て直しを図ったが、ホームに帰ってきたブライトン戦でまたも0-1負け。冒頭で記したシティ戦1-4大敗の前で、完全に力尽きていた。
そして2月13日のレスター戦、1点を先制してから7分間で3点を奪い返されて逆転負けした内容を見ると、果たして今季のプレミアリーグの残り試合で勝利が奪えるのかというほど、状態は悪化している。またもアリソンの致命的なミスで奪われた2点目が話題になっているが、あの飛び出しもブラジル代表GKが今のリバプールの最終ラインを全く信頼していない証拠ではないだろうか。
記録を見ると、レスター戦で先発したシャルケからレンタルで獲得したトルコ代表DFオザン・カバクとヘンダーソンのCBコンビは、今季17通り目。しかもこの試合でも本職がボランチである主将が最終ラインを守ったが、今季真っ先にCBにコンバートされたファビーニョも本来はボランチ。この2人が中盤から離れたことで、ミッドフィールドでのボール争いも弱体化した。
昨季までの2年間、プレミアを席巻したクロップ・リバプールのバランスは、最前列と最終ラインに心身ともに強烈な個の才能を配置し、中盤には主将のヘンダーソンを中心に、ジョルジニオ・ワイナルドゥム、ファビーニョ、またはジェームズ・ミルナーという言わば“喧嘩屋”とも言えるファイターを3人並べて、相手の攻撃陣を震え上がらせた。
しかし、才能豊かとはいえ、経験値が浅い20歳MFカーティス・ジョーンズ、そして確かに正確なパスワークには目を見張るものがあるが、今季バイエルン・ミュンヘンから移籍してきたばかりのチアゴ・アルカンタラが入ると、ボールロストが増え、リバプールが中盤で競り負けるシーンが続出した。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。