リバプールの“連覇消滅”を感じた瞬間 「史上最強の肉体を持つ男」の悲劇が招いた崩壊

エバートンGKピックフォードのタックルでファン・ダイクが負傷【写真:AP】
エバートンGKピックフォードのタックルでファン・ダイクが負傷【写真:AP】

意外なほど脆弱だった王者の土台、ファン・ダイク負傷離脱でバランスが崩れる

 特にプレミアリーグのように、全20クラブがそれなりの予算を持ち、下剋上が激しいリーグとなると、おびただしい数の小さな努力を積み重ねた絶妙なバランスの上に、強豪チームがそびえ立つことになる。すべてが完璧でなければ王者になれない。

 しかしその足元は意外なほど脆弱なのかもしれない。所詮は生身の人間がプレーしているのだ。ちょっとした違い、そして小さな歯車が一つ狂ったとしても、チームのバランスが崩れ、敗因となる。

 とすれば、フィルジル・ファン・ダイクという取り替えが利かない大きな歯車が欠けたことは、今季のリバプールに計り知れない大きな影響を与えて当然だ。

 すべては10月17日に行われたエバートンのホームでの“マージーサイド・ダービー”で起こった出来事に帰結する。本当に酷いタックルだった。コーナーキックからの流れで、オランダ代表DFが最前線に残っていたのが運のつきだった。ペナルティーエリア内でこぼれ球を追ったファン・ダイクにエバートンGKジョーダン・ピックフォードが猛チャージをかけ、次の瞬間、あの頑丈なオランダ代表DFがピッチ上でもんどり打って倒れ、苦悶の表情を浮かべていた。

 試合後、ユルゲン・クロップ監督は鬼のような形相で「GKがあんなタックルをするのは許されない」と語ったが、ファン・ダイクがオフサイドだったため、反則も取られず、無論PKにもならず、リバプールにとってはなんとも理不尽で無残なプレーとなった。

 この瞬間、昨季王者の強者の土台に大きな亀裂が生じた。ファン・ダイクの負傷は膝の靭帯損傷で、今季中の復帰が絶望的な大怪我だった。

 2018年1月にファン・ダイクをサウサンプトンから当時のDFの最高移籍金7500万ポンド(約111億円)で獲得し、同年夏にローマからブラジル代表GKアリソンを獲得して、翌2019年6月にUEFAチャンピオンズリーグ(CL)優勝。そして2020年、クラブの悲願だったプレミアリーグ初優勝を果たした。

 モハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネの“黄金の3トップ”が凄まじい決定力を見せるだけでは、王者となるためにもう一歩足りなかった。それは守りの安定感だった。その最後のピースを、ファン・ダイクとアリソンがもたらし、チームが完成した。

 しかもファン・ダイクは、守りを強固にしただけではなく、その並外れた身体能力でリバプールのセットプレーを極めて危険なものに変えた。リバプールがコーナーキックを得るたびにファン・ダイクがモニターに大写しになる。デッドボールのシチュエーションが、レッズの大きな得点源になった。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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