センターフォワード不在でも点は取れる マンCが確立した画期的な「ゼロトップ」戦法
【識者コラム】絶好調のマンC、苦肉の策で生まれた正真正銘の「ゼロトップ」
マンチェスター・シティのMFイルカイ・ギュンドアンが、1月のプレミアリーグ月間最優秀選手に選出された。ギュンドアンは1月の6試合すべてにプレーして5得点。チームは6戦全勝で、リーグ首位に立っている。
このところのシティは正真正銘の「ゼロトップ」だ。いわゆる“偽9番”だが、リオネル・メッシ(バルセロナ)やフランチェスコ・トッティ(元ローマ)はタイプとして9番(センターフォワード/CF)ではなかっただけで、チームの得点源ではあった。
ところが、シティのCFは試合によって代わっている。ケビン・デ・ブライネがCFだったこともあるし、ラヒーム・スターリングやフィル・フォーデンの時もある。本来はCFであるセルヒオ・アグエロ、ガブリエル・ジェズスの欠場が長引いたための苦肉の策だった。
“偽9番”に相応しい選手がいるからではなく、9番がいないのでトップがゼロになってしまったというゼロトップ。しかし、これが上手く機能している。最前線に入るのは流れのなかで変わる。キックオフ時のCFはいちおう決まっているが、“偽9番”として固定するのではなくて、空席のCFに流れのなかで誰でも座っていいというやり方だ。MFのギュンドアンが得点を荒稼ぎしているのもトップ・ゼロの戦法と関係があるだろう。
シティはミニゲームのようにパスをつなぎ、そのままミニゲームのコートがゴール前へ移動していくような攻め方で点を取っている。特定の選手にシュートさせるための攻撃ではなく、いわば成り行きで得点している。ゼロトップ戦法としても画期的だ。
ストライカーは他の選手とは少し違った資質が要求される。
ゴールに最も近い場所で獲物を待つように息をひそめる。DFだけでなくGKも相手にしながら、動かないゴールへ最後の「パス」をする。MFとは違う種類の技術とメンタルが要求されているポジションだ。ボックス内の修羅場で勝負するためのフィジカルの強さも必要かもしれない。
ストライカーはチームの得点源としての役割を期待されている。多くのチームのリーディングスコアラーはCFだが、サッカー史で最も多くのゴールを決めているのは実はCFではない。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。