南野が「プレミアA級ゴール」で示した資質 王様待遇で躍動、“無”から生んだ個人技弾
今季のリバプールで起こった想定外の二つの出来事
しかし想定外の出来事が二つ起こった。一つ目は南野に遅れること半年でリバプールに加入したポルトガル代表FWディオゴ・ジョッタの大爆発だ。
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)のアタランタ戦(5-0)でハットトリックを達成すると、リーグ戦でもゴールを連発。公式戦10試合で7ゴールを決めた新加入選手は1993年の元イングランド代表FWロビー・ファウラー以来という衝撃のデビューだった。
しかし、24歳のポルトガル代表FWはリバプール移籍前にウォルバーハンプトンで2シーズン、レギュラーとしてプレミアを経験していた。リーグ戦のゴール数も9得点、7得点と記録し、リバプールで爆発する下地があったのだ。
だが、このジョッタの活躍で、南野のチーム内での序列は確実に一枚下がった。
そしてこのジョッタの大活躍に加わる二つ目の想定外の出来事が、守備の大黒柱であるオランダ代表DFフィルジル・ファン・ダイクの負傷だ。世界一と評価されるセンターバック(CB)が第5節エバートン戦(2-2)で膝の靭帯損傷の大怪我を負い、長期欠場に追い込まれてしまった。
さらにもう1人のレギュラーCBであるイングランド代表DFジョー・ゴメスも、ファン・ダイクを追いかけるように膝の靭帯を損傷。世界一のCBとそのパートナーが揃って今季中の復帰が絶望となり、チームのバランスが完全に崩れると、シーズンの折り返し地点となる年末から昨季王者が大不振に陥った。
ジョッタは12月9日のCLミッティラン戦(1-1)で負傷して戦列を離れたが、守備陣が総崩れとなったことで、さすがのクロップ監督も南野を成長させたいという思いだけで公式戦に起用する余裕がなくなった。
ファン・ダイクという絶対的なCBが欠けて、守備が目に見えて弱体化した。特にセットプレーの守りから高さと強靭さが失われたのが痛かった。こうなると、DF陣にヘディングが強い大型選手を揃え、フィジカルなセットプレーを展開するチームが多いプレミアでは、ただでさえ小さいFW陣を抱えたクロップ監督が、イングランドの真剣勝負の経験値が浅い南野の起用に躊躇したのも仕方がない。
しかし日本代表MFは、昨年12月19日のクリスタル・パレス戦でリーグ初ゴールを含む大活躍を見せたように、絶好のコンディションを保っていた。ドイツ人闘将は「1分でも多く“タキ”にプレミア戦を経験させたい」と切望していたと思う。そんな時に降って湧いたのが、サウサンプトンへのレンタル移籍だった。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。