南野が「プレミアA級ゴール」で示した資質 王様待遇で躍動、“無”から生んだ個人技弾
英国では全くチャンスがないところから得点するアタッカーがリスペクトされる
まず自分の力を見せつける。FWなら点を取ることに執着しなければならない。そして「インディビジュアル=個人の力」を重視するイングランドでは、全くチャンスがないところからゴールを決めるようなストライカーがリスペクトされ、重用される。言い換えれば、身勝手でもなんでもいいから、とにかくフィニッシュして1点を取る。そんな姿勢が求められるリーグなのだ。
もちろん、連係プレーやチームの和は大切だ。しかしプレミアでは、それは卓越した個人技があることを証明した“次”に求められるものだ。
一方、サッカーのようなチームスポーツなら、日本人は協調性を重要視するだろう。それが国民性というものだ。ところが英国ではそれは個人の技量の次。「まずチームにフィットする」「チームのやることを理解する」という組織を第一に考える日本人独特の感性が遠慮につながり、十分に自己表現することができないのではないかと心配した。
しかし、南野を次に取材した1月23日のウォルバーハンプトン戦でそんな杞憂はすっかり晴れた。
それもリバプールに来る前にオーストリアで6シーズンにわたってプレーし、欧州サッカーに揉まれた経験があるからだろう。エバートン戦からわずか半月で、日本代表MFは「ピッチの上で何かを示して、初めて『こいつはやるな』と認められたいし、今までもそうしてきた。本当の意味で、そういう風に認めさせたいと思います」と語って、リバプールという図抜けたチームの中で自分の力をしっかり誇示していくという気持ちに切り替わっていた。
ところが、当然ながらエジプト代表FWモハメド・サラー、ブラジル代表FWロベルト・フィルミーノ、セネガル代表FWサディオ・マネの黄金の3トップの牙城を崩すのは難しかった。ユルゲン・クロップ監督も南野は“将来を見越した補強”と明言し、日本代表MFもあの3トップの控えという自分の立ち位置に関しては「覚悟して入ってきている」と語り、なかなか出場機会が巡ってこない境遇に耐える覚悟を示していた。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。